青海省編

橡皮山 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

そんなことはさておき、我々を珍しがったチベット族が数人、少し離
れたところからこちらを見ている。
少し警戒した感じであるが、自分達の生活圏内によそ者がいきなり入
り込んできたのだから、当然の反応である。
唯一知っているチベット語で、「タシデレ」と挨拶してみる。
すると、雰囲気が一気に和らぎ、お互い片言の中国語でなんだかだと
盛り上がる。そして、そのうちのひとりの男性が我々を自分のテント
に招待してくれた。
 知り合いのモンゴル族の大学教授が「遊牧民族は、旅人(通りすが
りの人)を自分のテントに招待するのが好きだ」と言っていた。
ひとつは旅人の苦労をねぎらうためであるが、もうひとつ、広い草原
で分散して暮らす彼らにとって、かつては旅人のもたらす情報こそが、
今世間で何が起こっているかを知る唯一の手段だったのだ。
今ではそんなことをしなくても必要な情報は入ってくるのだろうが、
「客を招く」という習慣だけは残っているようだ。

彼の名前は、ツェテ、
奥さんと8歳の女の子、5歳の男の子の4人家族である。
彼のテントも他のチベット族のそれと同じように四角い。
10畳ほどの広さのテントの奥半分にはフェルト地の分厚い敷物が敷い
てあり、周囲に若干の生活道具が並んでいる。
手前は、地面がむき出しのままの土間で、片隅に鍋や食器などの台所
用品が置いてある。
また土間の部分には中央に「かまど」がしつらえてあり、炊事と同時
に、暖を取れるしくみになっている。
狭いテントの中には装飾品らしいものはなく、テーブルすらない。
至って簡素で実用的である。
 それもそのはずで、ツェテ一家が草原にテントを張って暮らすのは、
毎年5?7月の夏の3ヵ月間だけなのだ。毎年5月になると、羊を連れて
夏の放牧地である橡皮山に移動し、テントで生活する。
8月になると山を降り、黒馬河という村にある家で暮らす。
羊の群れは、黒馬河から橡皮山までの18キロの道のりをたった3?4時
間で移動するという。
 見たところかなり多くの羊を飼っているようだが、「一匹も迷子に
ならずにそんなに速く18キロの道のりを移動できるの?」と聞いたら、
ツェテは「当然だよ、羊たちも速く涼しい所に行きたいと思っている
からね!」と得意満面の表情で答えた。
ちなみに、中国のある少数民族のタブーに「主人の牛羊の数を数えて
はいけない」というのがあるという話を聞いたことがある。
それはチベット族ではないが、万が一失礼に当たるといけないので、
何頭いるかは聞かなかった。

          (つづく)

中国ビザ 航空券 港華