小麦の収穫  

 我々が河南省を訪れたのは、ちょうど「芒種」の頃。
芒種」とは、文字上の意味では「芒(のぎ)のある作物を植える」つまり、
イネを植えることを指す。ただ、もともと黄河中・下流域の天候にあわせて
作られた二十四節気における「芒種」は「ムギを刈りイネを植える時期」と、
ものの本にある。そして、正にこの時期のこの地域は、冬小麦の収穫で大忙
しなのである。
 くわえて言うと、河南省は農業大省のひとつで、ここを代表する作物のひ
とつが冬小麦である。冬小麦とは、秋に種を播いてそのまま冬を越し、翌年
の5月末から6月頃に収穫する小麦を指し、冬小麦は春小麦に比べておいしい
のだそうだ。

 鞏義で小麦の収穫を見て以来、小麦のことが気になって仕方なく、とうと
う収穫中の畑にお邪魔してしまった。その時の話を・・・。
 鄭州滞在中、そろそろありきたりの観光にも飽きて、ある日の午後突然、
小麦畑を見に行く決心をした。でも、「どこへ行けばよいのだろう?」と
いうわけで、まず、郊外行きのバスが多いバスターミナルへ行き、ミニバス
の運転手に聞いてみた。「このバスに乗ったら、小麦の収穫見られる?」
すると、意外にもあっさり、「ああ。」の返事。半信半疑で乗り込んだら、
果たして、大きな大きな畑に、唸りを上げて突き進むコンバインが次々に
車窓に現れるではないか。ほどよいところでバスを飛び降りて、近づいて
みる。

 これらの広い畑は、ワンオーナーでもなく共同経営でもない。畑の中に目
印があり、それに従って「ここからここまでは○○さん宅(ち)の畑」と定
められているようだ。我々が着いた時は、ちょうど、畑の真ん中でおばさん
が、刈り取る時の目印にする棒を立てているところだった。おばさん曰く、
うちのは良い品種の小麦だから今年も実りがよい、そうだ。
 この辺りの刈り取りは、主にコンバインを使って専門業者がやっているの
で、畑の所有者はコンバインが来るまで袋を用意したり、畑の際の機械では
刈りにくい部分を手で刈り取ったりしながら、待機している。
コンバインがやって来ると、あとは早いもので、あっという間に広大な畑が
丸裸にされる。
もちろん収穫は、コンバインの刃が隣の畑との境界線を越えないように、注
意深く行われる。一方、畑の所有者はというと、コンバインから吐き出され
る小麦の粒を慎重に袋に詰める作業と、それをトラクターに乗せて持ち帰る
作業をするだけ。そして、3、40分もすれば一農家分の畑を刈り終えて、
コンバインはまた次の畑へと向かう。コンバインが来るまでは我々の相手を
してくれていたおばさんも、いつの間にか、袋詰めに必死になっていた。

 このようにコンバインに乗ってやって来る「賃刈り」業者を、「鉄麦客」
と呼ぶそうだ。
 かつては、一家総出で1週間以上もかけて麦刈りをしたそうだが、やはり
人手が足りず、「麦客」と呼ばれる麦刈り専門の出稼ぎ労働者の助けを借
りたりしていた。そして今は、"鉄"製の「聯合収割機」(中国語でコンバ
インをこう呼ぶ)に乗ってやってくる「麦客」、つまり「鉄麦客」が、
一瞬にして麦刈りと脱穀の重労働を終わらせてくれる。
ニュースで見たのだが、最近はこの「鉄麦客」も、いよいよハイテク化し、
コンピューターを駆使した仲介業者(?)と、携帯電話を使って連絡を取
り合いながら、要求のあった畑に正確かつ迅速に行き着くのだそうだ。

 時代と共に農村・農作業も当然変化していくものだが、さらに、小麦の
収穫に関して興味深い事をもう少し・・・。
 まず、小麦の収穫と交通の関係である。一見何の関係もない2つだが、
この時期、コンバインが幹線道路、時には高速道路を走るので、交通渋滞の
原因になったり、事故の原因になったりするそうだ。今後近いうちに何らか
の対策がとられるはずだ。
 2つ目は、刈り取った後の穀物を以前はよく公道上で乾燥させていたが、
今は禁止されていること。農村地区にも多くの自動車が走るようになった
からで、やはり交通事故の原因になるらしい。確かに、いきなり前方の道路
上に穀物が敷かれていて、それを踏んだとたんハンドルをとられて・・・、
ブレを戻そうにもタイヤは既に麦粒の上。考えただけで恐ろしい。
 最後は、刈り取った後の麦藁は、以前燃やしていたが、それも禁止された
こと。かなり高額の罰金が課せられるようだ。環境保護の観点から、二酸化
炭素等の放出を防ぐのが目的だ。
そこで一部の農民は、黄河に捨ててしまえ、と考え、実際に実行してしまっ
た。これまた問題になって、即禁止。
でも、じゃあ、あんな大量の麦藁を一体どうするのだろうか? 
それについては、未だよくわからない。

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