ハルビンの春と学校生活について 3月27日

日本では、もう桜の時期ですね。こちらでは、今日も雪が降りました。零下だと、雪も降りません、だからハルビンの春も間近といっていいでしょう。さっきは校庭の枯れ草に、若干緑がかった芝生を発見して、うれしくなりました。
何より春の訪れを感じさせるのは、こちらでは草花ではなく、人です。厳寒の服装から、軽装へと移りつつあります。それだけではありません。大通りに、日一日と、露天が増えてゆくのです。昨日より今日、今日より明日と、地面にござを敷いてものを売る人が増えていきます。閑散とした大通りが次第に活況を呈していくのを見るのは、本当に愉快で、わくわくします。長い冬から、やっと解放されるのでしょう。着いた頃はわずか三軒くらいだった露天は、いまや20軒近くまで増えています。
多分、これからがここの人たちの、本当の生活が始まるのだと思います。やがて草花も一斉に芽を吹き出すのでしょうが、まず人があって、自然は二の次のようです。生活第一、そして商魂たくましい中国人の姿を垣間見るような思いがします。
さて、今日は、学校生活について書いてみたいと思います。
こちらの朝はとても早く、企業も学校も、ほとんどが8時始まりです。みんなぎりぎりまで寝ているのかというと、そうではありません。多くの中国人は、早寝早起きの習慣があるので、朝早くから、校庭でバスケットやサッカーをしている大学生たちを見ることができます。もっと暖かくなれば、もう少しゆっくりとした運動、太極拳や気功をする風景が見られることでしょう。
留学生が通っているこの学校には、7つのクラスがあります。学位ももらえる4年制の本科以外の生徒は、選抜試験により次の5つに分けられます。新入門、入門、初級、中級、高級。私は初級B班の授業を受けています。B班には先学期から引き続き勉強している生徒が多いので、彼らに追いつくのが精一杯、悪戦苦闘の毎日です。これらのほかにも、もう一つクラスがあります。それは進修といって、一番難しいクラスです。本科の授業を聴講することもできます。
授業は昼の12時まで続きます。けたたましいベルの音とともに、先生も生徒も帰る準備を始めます。彼らはなぜ急ぐのかというと、もちろんすぐにも解放されたいという気持ちもありますが、早く食堂へ行かないと、座る場所がなくなってしまうからです。肉まんなどの人気メニューもすぐ売り切れになってしまいます。そればかりでなく、食堂は12:30には閉まってしまうのです。30分以内に食べるものを決め、並んで買い、食べ終わらなければなりません。
しかしながら、この習慣になじめない生徒も少なくありません。それではどうするのかというと、「帯走」(持ち帰り)して、部屋でゆっくり食べるのです。そうすれば、あわてる必要もないし、12時からの中国全国ニュースを観ることもできます。私も、最近はもっぱらこの方法で昼食をとっています。ニュースはまだ聞き取れませんが。
午後からは、完全に自由な時間です。といっても、それは相当中国語が堪能な人の話です。私のような、来て間もない留学生は、たいてい午後は中国人大学生と一緒に勉強します。一緒に勉強するといっても、方法は二つあります。一つは、日本語科の生徒と1時間ずつ母国語を教えあう「互学」。もう一つは、中文科などの生徒にお金を払って授業してもらう「補導」です。
今、週に2回「互学」を、週に1回「補導」を入れています。しかしこれではまだ少ないので、あと週に2回、「補導」を増やそうと考えています。気になる値段の方ですが、1回2時間で15元(約200円)です。単純に考えれば、日本で高い授業料を払わずに教えてもらえるので安いのですが、しかし彼女たちはあくまで「生徒」、プロの教師ではありませんし、こちらの方でも何を教えてもらっていいのかわからないのですから、お互い試行錯誤の連続です。
そうこうしている間に、夕食の時間が来てしまいます。昼間混雑している学生食堂のほかに、韓国料理の店があり、夕食はたいていここですまします。同じ料理なのに毎日味付けが変わることと、しょっぱい味付けに慣れさえすれば、かなり満足のいく食事をとることができます。ただし一皿の量が多いので、2人以上いないと、とても食べ切れません。もちろん残った分は「拿走」することもできますが、さめると美味しくないし、なんといっても夕食が一番落ち着く時間です、みんなで一日の出来事を語り合うのはとても楽しいので、必ず何人かで連れ立って食べに行きます。
夕食を済ませたら、部屋へ戻ってすぐ、浴槽にお湯をため始めます。一番混んでいる時間は水の出が悪いし、時間によっては熱いお湯しかでずやけどをしてしまうので、給水の始まる7時に、誰よりも早く入ってしまおうという寸法です。熱いお湯しかでないときは、くつろぐどころではなく、むしろ苦痛ですらあります。水さえでなくなってしまうのですから、洗面器でうすめることもできません。シャワーかけもないので、こういうときは、しみじみ我が家のお風呂を思い出します。
お風呂から出たら洗濯、それから次の日の予習をします。このころにはもう8時半を過ぎていることが多いので、ちょっと難しい問題にぶち当たると、時間がなくて焦り始めます。
学校の売店で働いている、学年で一つ年上の、中国人女性がいます。彼女とは仲がよく、暇なときはおしゃべりをします。「補導」も彼女が紹介してくれました。すでに2歳の男の子がいるのですが、仕事の関係から日本語・韓国語・英語・ロシア語を少しずつ勉強しています。彼女がいうには「新しい語学は30歳にはきつい。覚えられない」。それは一度にそんなにたくさんの語学を同時に勉強しているからでしょうが、気が弱くなっているとき、覚えた単語をすぐ忘れてしまったり、難しい問題が出てくると、頭にぼんやり、彼女の台詞が浮かんでくることもあります。あと一月あまりで私も30ですからね。
時計をちらちら見ながら勉強して、こちらの時間でだいたい11時頃には、切り上げます。あまり長くやっていると、興奮してなかなか寝付けないことが多いからです。眠れないときは、ビールを飲みながら、深夜のテレビを見ます。冷蔵庫からビールを欠かしたことはありません。こちらのビールは皆甘く、なかなか口に合うものが見つからないので、いろいろ試している最中なのです。11時以降、テレビを見る人は少ないようで、昼間はあまりやらない日本のドラマ(ただし中国語吹き替え、しかも古い)や、ロシアやアメリカのつまらない映画を放送しています。程良くほろ酔い加減になったところで電気を消し、眠りにつきます。平日は、ほとんどこの生活パターンの繰り返しです。
韓国人は本当に歌が好きなようで、夜になると、大音量でどこからかへたくそな歌が聞こえてきます。ロシア人は、ほとんどがブルジョア子弟で、兵役から逃れさせるため親が安全なところへ避難させている、名ばかりの留学生です。街へ繰り出し夜まで遊んで、夜中に大声を出しながら帰ってくるのを、よく耳にします。さらに、どこの国の人かわかりませんが、夜中の3時半にいきなり笛を吹き出す生徒もいます。へたくそな上、同じところばかり吹いているので、腹が立つよりも笑ってしまいます。
今はとにかく、楽に授業が受けられるようになることが目標です。そうすれば時間もできるし、念願の胡弓を習うこともできます。
学校生活については、ざっとこんな感じです。

★ 後日談

夏になり、露天は歩道橋の上を埋め尽くすほどになりました。ところで、彼らがなぜ品物をござの上に並べて売るのか分かりました。警察の手入れが来たら、すぐに店をたためるようにしているのです。そのあざやかさ、すばやさはすばらしく、彼らの後にはゴミ一つ残りません。そうして時間が経ちほとぼりが冷めると、またぽつりぽつりと露天が立ち始めます。
 


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