「世界杯」前編

先日閉幕したワールドカップだが、中国でもすごい盛り上がりを見せていた。それというのも今大会には、中国が初出場したからである。ミルなんとかという監督は、CMにも引っ張りだこの人気ぶりを誇っている。中国語では、ミールーと呼ばれているので、私は彼の本名を知らない。彼の中国語は恐ろしく下手で、友人とそのコマーシャルを見ていたら、「こういう外国人見るとホっとするよね、あまりにも下手で、自信が持てる」と、しみじみと言っていた。字幕が必要なくらい、めちゃめちゃな声調だが、今、彼は中国の英雄である。
中国チームの初試合の日、北京時間の2時半がキックオフであった。ある上海の日系の工場では、休暇の申請が相次いで、ラインが回らなくなり、することがなくなった日本人達はゴルフに行ったとか・・・日頃から愛国心に厚い国民性であるので、とにかく、中国人が「世界杯」にかける気迫と期待はすごかった。わが社ではボスが、「希望者はゲームを見に行こう」と、オフィスビル内の別フロアにある自宅へと、ゾロゾロとサッカー観戦に行った。私は、同じ日の夜の日本VSベルギー戦を見るために、そんなところで時間をロスするわけにいかないので、オフィスに残って仕事をしていたが、女性の多い職場のせいか、スタッフの半分くらいは残留していた。一人の女性スタッフが、「日本も韓国も予選に出ていないわよね。中国は予選を突破したけど」と言っている。ん?それではまるで、中国だけが実力でワールドカップ出場を勝ち取ったといわんばかりではないか。日本と韓国が予選に出なかったから、中国が出場できたのでは・・・と思うのは、きっと私だけで、みんな「そうよねー、不公平だわ」と同意している。中国の社会主義は有名無実に成り果てているが、この国の社会主義を感じる瞬間は、中国人の”不公平”という言葉への反応である。そのセリフには、やたらと敏感に、過剰なまでに反応するのだ。どうやら中国人は、”不公平”といわれるのが、大キライのようである。
脱線するが、以前、日本から友人がきた際に、故宮へ行った時のこと。閉門は5時だが、入場券は4時までしか販売しておらず、僅差で入場券が買えなかったが、ここまで来たからには、見ずに帰る訳にはいかない。入り口脇の事務室に行き、彼女は日本から来た、明日の朝、帰るんだ、北京に来て故宮を見ないで帰ったら、北京に来た意味がない、紫禁城はワールドジュエリー、中国の誇り・・・と、御世辞を言って持ち上げてみたが、剣もホロロに「ダメだ、決まりだ、諦めろ」と断られる。そこを何か・・・とゴネている私の後ろを、欧米人のツアー客がゾロゾロと入っていくではないか・・・。よしっっ、このチャンスを逃す手はない!「何で彼らは入れるの?」とすかさず聞くと、「彼らは団体ツアーだから予め入場券を持っているんだ、だから問題ない」という。ふーむ、ごもっとも・・・と内心納得したが、それはそれは不満そうな顔で
「どうして?私達の方が先に来たのに、不公平でしょ、彼らは入れて、私達はダメだなんて、ふこーへーよ、ふこーへーだわ!」と、やや声を張り上げ気味に、やたらと「不公平」連発してみる。対応してくれていた年配の女性の眉がぴくっと動く。よしっ、あと一息!とばかりに「不公平でしょ、これって不公平だよねー、私達だって外国人なのに欧米人は良いの?ズルイよー」とダメ押し。私だって自分の言ってる事がどれだけ無茶か、分かってはいるが、とりあえず、どんな無茶でも、一応ゴネてみる・・・というのが、中国生活で学んだ教訓である。
そして、その女性は、「分かったわ、あんたの言うことも間違っていないわ。時間が遅いからお金はいらないわ、ちゃんと閉門時間には出るようにね」と、タダでいれてくれたのである。私の言っていることは、多分、間違ってるぞ・・・と思うが、相手の気の変わらない内に、入ってしまえば、こっちのものなのだ。「不公平」、このセリフは、旗色が悪くなった時に使うと、思わぬ威力を発揮するものである。
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