「世界杯」後編

ちなみに、もう一つの奥の手は、「聴不ドン」(ティンブドン)=言われていることが分かりません、なのだ。日本から旅行で来る友人も大概、謝謝や再見くらいは知っているが、私に言わせると、一番覚えて欲しいのは、この「聴不ドン」である。中国語で何を言われても、こう答えてね、と誰かれ構わず真っ先に教えるフレーズであり、声調が外れていても、まず通じるセリフなのだ。中国人の大多数は、しつこい物売りも物乞いさえも、相手が「聴不ドン」だと分かると、大抵は深追いしない。言っても無駄だと知っているからである。以前、撮影禁止エリアだということを知らずに写真を撮り、公安にフイルムを取り上げられそうになった上、罰金まで請求された。何で?と聞いたら、「ここは撮影禁止だ。カメラを渡せ」という。「他で撮った写真もあるから、見逃して」と頼んだが、ガンとして聞いてくれない。散々中国語でやり取りした後だったが、もう、ここは「聴不ドン」になるしかない。「我聴不ドン、聴不ドン」を連発して首をブンブンっと振ってみせる。何を言われても、聴不ドン、聴不ドンをひたすら繰り返すのだ。わざと声調をハズしてみるのもコツかもしれない。「さっきまで中国語を話していたじゃないか・・・」と突っ込まれても、聴不ドン、聴不ドン、を繰り返すのみ。やがて「ちぇっ、こいつ、だめだ、何を言っても分からない・・・」と、手でシッシと追っ払われた。もちろん罰金も払わず、フイルムも無事。聴不ドン作戦、大成功である。ある友人は、ティンブドンと共にアイムジャパニーズを連発すると言っていた。どうやら、みんな同じような手を使っているようだ。(2011年追記:ダメなときはダメなのでご注意ください)
さて話が大分、脱線してしまったが、テーマは、そうそう、ワールドカップ。新聞で見たが、中国政府は、ワールドカップで得点した選手に「一点ごとにパジェロを一台プレゼント」の報奨制を打ち出していた。一般の中国人の生活水準を考えると、パジェロは、それこそポルシェかベンツくらいの、超高級品なのだ。しかし世界の壁は厚く、残念ながらパジェロをゲットできた選手はいなかったが。
そして、わが社のスタッフはその後の日本や韓国の健闘ぶりを見て、二度と「不公平だわ」とは言わなくなり、決勝リーグへ進出した日本と韓国に、暖かい声援を送ってくれていた。嬉いといえば、嬉しいが「いつものムキだしライバル心はいずこへ?」と思わなくもない。こんな時は「同じアジア人として・・・」になるようだ。
そうそう、ロシア戦だったか、小泉首相が観戦に来ていた試合で、アナウンサーの、「日本チームのメンバーは、今日はとても緊張しています。何故ならば、小泉首相が来ているからです」とのコメントには笑えた。日本人にとっての総理大臣の存在は、みなさんの毛沢東江沢民とは違うぞ、と思ったが、まあ、そういうことにしておこうではないか。
http://homepage3.nifty.com/kamakurakoka/