9月11日(水) 人民のみなさんと碧塔海一日観光へ

街並みを見る限りではおよそ浮かばない"香格里拉"のイメージ、麗江に比べるとまるっきり殺風景な印象ですが、ここを起点に"桃源郷"の大自然を味わえるいくつかのスポットがあります。これから行く"碧塔海"(ビーターハイ)もその一つ、"海"というのは"湖"のこと、それも海抜4,000メートル余のところにある高原の湖です。
雲南へ来てはじめての現地ツアーは朝7時半の集合。朝食もとらずにロビーで待機していたのに、結局8時半過ぎてようやくの出発となりました。定員25名ほどのマイクロバスはもう満席、ということは、わたしはなんとかねじ込んでもらった最後の一人。チベット風の衣装をつけたガイド嬢(彼女の両親はチベット族とナシ族)以外、乗客はみな中国各地から観光にやって来た国内旅行者、いちばん後ろに乗り込んだわたしの隣は六十代半ばくらいの重慶から来た老夫婦、四川方言でほとんど聞き取れないけれど、こちらの言うことは理解してくれます。他に上海、広州、福建…、なかでも上海と広州からが圧倒的多数を占めています。
この日は雨が降り出しそうなあいにくのお天気、霧にかすむ山道を碧塔海へと向かう途中、ガイド嬢から次のような"注意"が…、「これから向かう碧塔海の入り口は海抜4,100メートルあります。高山病の心配がある方は酸素袋をご用意されたほうがよろしいでしょう、帰路の上りに自信のない方は馬で戻ることもできます」このことばにバスの中はザワザワ、いまさらそんなこと言われても…(^^;少なくとも馬で戻ることだけはこの時点で決定!
周囲の景色に"樹胡子"をぶら下げた杉の木が目立つようになると、かなり標高が高いしるしです。約一時間あまりで見晴らしのきく高台に到着。ここから碧塔海までうっそうとした樹林帯の中、幅2メートルほどの桟道を下っていきます。小脇にクッションを抱えた人もいたりして、よく見ると管が…なるほどこれが"酸素袋"。地面には苔やらキノコやらが生えていて空気はしっとりしていますが、涼しさにかえって爽やかさを感じます。約20分ほど下ると、樹林帯を抜けて湿地帯が開け、遠くに湖の中ノ島が見えます。ところどころ水が染み出している湿地に下りてみると、ふわふわしてまるでウォーターベッドみたい。ごくまれにゴミが落ちていたり水面に油が浮いていたり、お掃除部隊が間に合わなかったのか?それにしても汚して欲しくないものです。
桟道の片側にはほんもののチベット族はまず着ないような派手な民族衣装を貸し出すところ、反対側の湿地にはこれまた記念撮影用のヤクの脇で声張り上げて歌うカムパのお兄さんたち…。"カムパ"というのは、チベット東南部"カム"地方の人という意味、現在のチベット自治区東南部と境を接する四川省雲南省あたり一帯のチベット族をとくにこう呼んでいて、その音訳漢字"康巴"はホテルやお店、旅行社の名前などによく使われています。
彼らの間を通り抜けて15分ほど歩くと、ようやく満々と水をたたえた湖面が見えてきます。6月頃ならあたり一面石楠花が咲いてさぞきれいなことでしょうが、いまの時期は原生林が青黒く見えるばかり。
湖面を見ながらぼーっとしていたいけれど、ゆっくりもしていられないのがツアー参加者の宿命、集合時間の11時15分までにはバスに戻らないといけません。息を切らせながら桟道を樹林帯の入り口まで早足で戻ると、そこは馬乗り場と上り桟道の分かれ道。もちろん25元で馬に乗るほうを選択、ずらずらと上まで続く馬列に加わりました。
馬組はみんな11時には到着しましたが、徒歩組は待てど暮らせど戻ってきません。ガイド嬢に率いられて全員が揃ったのは集合時間を30分ほど回ってからのこと。高山の経験がない重慶老夫婦が徒歩で上ってきたのには感服しました。わたしなどは馬から下りて駐車場までの上りだけでもうギブアップだったというのに…。
待ち時間にこんな会話もありました。「ぼくたちが払った馬代25元のうち、馬を引いている彼らがいくらもらえるか知ってますか?たったの5元だそうですよ!」上海組の粋なお兄さんが同情的にこう言うと、「そんなばかな!馬は連中のものなんだから、25元まるまるの儲けだろう?一日三回は往復するって言ってたからな、一ヶ月働いたら相当な稼ぎだぞ!」と、広州組のもの知りぶったおじさん。そんないい話あるもんですか、管理費や場所代、もろもろの費用とられて彼らの手元に残るのは上海兄さんの言うとおり5〜10元くらいのものですよ。
話題変わって…、「ダライ・ラマの兄さんがチベットを訪れたらしいですよ」こんども"上海粋兄さん"の発言、それにしてもよくご存知で。「パンチェンは黄帽(ゲルク)派で、ダライは紅帽(ニンマ)派だろ、宗派がちがうんだ!」得意げに言う広州組のおじさん。それはちがいます、どっちも黄帽(ゲルク)派なんです!この "広州知ったかおじさん"はその後もあいかわらずこんな調子でした。
人民のみなさんは正しく理解しているかどうかはさておき、けっこうチベットに興味を持っているようです。そういえば、上海組アベックAの中年男性も、ガイドのヂンチェン・ドルマ嬢にいろいろチベットのことについて尋ねていました。
(2002年掲載 この項続く)
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