9月11日(水) 人民のみなさんと碧塔海一日観光へ

碧塔海を出たのはもうお昼近く、山を下りながら"広州ギャル軍団"がチベットの歌を中国語で披露、なぜかわたしもご指名を受けて"さくら"など歌ってしまいました。"車内オケなし喉自慢"になるかと思ったら、みなさんお腹が空いて元気がないのか、残念ながらそのまま立ち消えに。
麓に下りたら食事に連れて行ってくれるものとばかり思っていたのに、なぜか民家の間を縫って新しく建てたらしい"藏族文化中心"なるところへ案内されました。門をくぐると立派な二階建てコの字型木造建築。チベットのお金持ちの家を模したものらしいですが、客間に通されると館長と名乗るナシ族のおばさんがチベット医学に関する講義。「そんなことは知ってるよ」と"広州知ったかおじさん"、他の人たちもみな大あくびしながら半分居眠り…、そんな光景を観察しながら、ひとり目がさえてしまったのでした。
「…というわけで、みなさんにはこれから二階へ上がっていただき、ご自由にチベット医学の心得のある先生方に診ていただくことができます。みなさんの髪の毛たった一本からでもどこが悪いのかすぐわかります…」ほんとでですか?たとえ本当でもそれだけではすまされそうもない感じです。案の定、二階の先生方のいらっしゃるお部屋の周囲には有名なチベット薬がずらりと並べられています。聞いて見ると、例えば有名な"珍珠丸"シリーズの"珍珠二十五味丸"は小箱で一箱120元、一応正規の定価販売でした。外の別棟では薬草やチベット風アクセサリーも売っていましたが、みなさんの財布の紐は固く結ばれたまま。店の女の子に「"紅豆杉"は日本語でなんと言うの?」と聞かれて「う〜ん、"あずき杉"かな?いや"紅豆杉"はやっぱり"紅豆杉"よ」などと適当に答えてしまいましたが、あとで調べてみたらスギではなくてイチイの仲間、雲南省の海抜3,000メートル以上の高山にあって、木そのものが"不老長寿"の漢方薬だそうです。
ようやくお昼ご飯にありつけたのは午後2時のこと。"藏族文化中心"とちょっと似た感じの立派な二階建て建築ですが、こちらは"一"の字型、チベット風屋外香炉が載った門を入ると噴水の代わりに大きなチョルテン(仏塔)がありました。出てきたのは土地のものを使ったらしい炒め物料理ばかり、一汁五菜くらいはありました。
次なる目的地"松賛林寺"(ガンデン・スンツェリン)へ向かう途中、またも薬草やアクセサリー類を売る店に立ち寄ります。わたしを含む約5名ほどが店内へ。チベット薬の原料"藏紅花"(サフランのしべ:高血圧に効果あり)を見つけて「これってほとんどイランから輸入してるんでしょ?」と意地悪な発言に、販売員もさすがに苦笑。チベット薬が有名になって工場で量産される一方、限られた原料をいかに供給するかがいま最大の課題になっている中、輸入に頼るのもいたしかたないのでしょう。かといって"イラン産"なんて表示したらありがたみも薄れると言うもの。
"松賛林寺"(ガンデン・スンツェリン)はその外観から"小ポタラ宮"とも呼ばれる雲南きってのチベット仏教名刹、17世紀、"偉大なる五世"ダライ・ラマにより創建されましたが、ここもまた文革の破壊に遭い、いまの建物はその後再建されたもの、とはいえ街の北郊数キロの小高い丘一面に伽藍や僧院がひしめき合う姿はさながら要塞の如し、壮観さは十分伝わってきます。バスはそんな伽藍群を見上げる門前に停車、まさかここから階段を上がるのでは…、と一瞬ひやり。幸いそこでは拝観券を買っただけで、バスはそのまま丘を上って裏門まで行きました。
厨房のある弥勒殿は女人禁制、ちらと覗くと真っ暗な堂内には煙がもくもく。その隣、本殿のタクツァン大殿は三階建ての壮麗なチベット式建築。薄暗い内部の壁面三方には壁画、正面は金色極彩色の仏像やタンカ、歴代ダライ・ラマの塑像がバター灯明に照らし出されています。ダライ・ラマの宝座にはそのお師匠と故パンチェン・ラマ十世の写真。「なぜダライ・ラマ十四世の写真がないんですか?」と"上海粋兄さん"、いきなり沈黙を破っての質問。「その問題はタブーです」ガイド嬢の一蹴にみなこっくりと頷いたのでした。
恭しく僧侶の前に額ずいてその頭に祝福を頂戴する同行のお嬢さんたち、こういう光景は中国も日本もなんら変わりませんね。二階に上がると、三つに仕切られた中にそれぞれ巨大な三尊像、ヂンチェン・ドルマ嬢は三世仏と説明していましたが、ちょっとちがうかな。前のカムパの衣装を着た男性ガイドの解説に、「彼の説明でだいたいお分かりになったと思いますので次へ行きます…」と省略。いったん外へ出て外階段を上がると天窓のあるマニ車の回廊、さらに一層上がれば、そこははるか香格里拉の街を望むタクツァン大殿のテラス。その脇に設けられた木造の階段を上がると活仏の間、このお寺の活仏から祝福を頂戴することができるそうです。
松賛林寺では以上の二殿を回りましたが、拝観券を見ると他にもいくつか拝観できるお堂があるようです。お寺の裏山は"天葬台"(鳥葬場)。人が亡くなると遺体を百八つに分断して鳥たちに与えるという樹木の少ないチベットならではの葬送法ですが、このあたりではいまでも行われているようです。もちろん観光客が足を踏み入れることなどできません。
帰路、松賛林寺の全景を仰ぐ道の途中で下車し思い思いに写真撮影。ところがそこへ村人が一人、なにやらガイド嬢ともめています。「ここはオレたちの生活の場だ、勝手に車とめて写真とるなら一回につき1元よこせ!」くってかかる勢いに彼女も困り果てている様子。天下の公道で「撮影料よこせ」とは…、観光地になると人の心もすさんでしまうのでしょうか。 (5日目つづく  2002年掲載分)
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