黄山旅行記

リサーチャーKさんによる黄山旅行記.後編です。
Kさんは中国へは初めてです。(旅行時期は1996年)
あまり黄山の話ではないのですが、中国旅行の原点?の話ですね。

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さて、事件はそこから起こったのです。荷物を持って登山口近くのホテルに行くには
また白タクを使わなければなりません。紙に「12元」と書いて近くに停車していた
ワゴン車に示すと、案外すんなりOKです。通常はそこから面倒くさい交渉が始まるので、
その時のあっさりさに拍子抜けしました。それが後で災いしたのです。

乗車した白タクは順調に登山口まで進み、いざ支払という段階で助手席に乗っていた
運転手の妻と思われる女性が「200元」を要求してきました。

「なんだとこのやろう。さっきは12元と言ったじゃないか!」
紙を差し出して文句を言うと、向こうは同じ紙に書いてあった別の数字を指して
「200元」と言います。その数字はさっきホテルを予約する時に示したものであり、
全く別の場所に書いてあったためよもや間違えるわけはありません。
始めからだますつもりで乗せたのです。

「やっぱりこんなことだろうと思った…」
内心“またかよ”というやるせない気持を抱きつつ、私だって素直に200元を支払うほど
弱気ではありません。小雨がシトシト降るなか、しばらく「12元!」「200元!」
と言い合うこと数分。そろそろアタマに来ていた私はとっさに「逃げるが勝ち。こいつら
だって逃げれば諦めるだろう」と思いつき、12元を渡して荷物を抱え、さっさとホテルに
向かって走り始めました。車が止まった場所からホテルまでは細い石段をず〜っと数百段
登らなくてはならず、まるで山寺の本堂があるような場所まで息を切らしながら参拝する
ようです。

「これで大丈夫」と思ったのもつかの間、後ろを降りかえると、その女性は追いかけて
きたのです。なかなか根性があるんですね。でも、急な石段を駆け上るまではしない
だろう、とかたをくくっていたのが間違いでした。

200元を払いたくない一心で、わたしは重い荷物を持って半分くらいまで一気に登りま
した。「これで諦めただろう」と振り返って見ると、彼女も必死に登ってきます。
なんとか200元をふんだくってやろうとすさまじい形相です。その顔にびっくりした私は、
足がカクカクいうなか何とかホテルまでたどり着きました。

彼女もすぐに追いたものの、30代後半の体力には相当応えたらしく、ゼエゼエ息を切ら
しています。こっちも運動不足のためにもうフラフラです。お互いの情けない姿を
見合ってなぜか笑い出しました。私は手を差し出し、彼女の方に掌を向けました。
ちょうど「ストップ」というジェスチャーの感じですが、わたしは「ちょっと息を整え
よう」という意味が言いたかったのです。彼女に意図が通じたのか、なにもすることなく
ただ向かい合ったまま数10秒間が経過しました。

さあもう一度戦いの始まりです。ホテルのロビーで私は日本語、向こうは中国語を駆使
し、「12元!」「200元!」と言い合い、ついに埒があかないと思い私はもう20元差し出し
ました。合計32元で、女性は納得したのか、その金を受け取って帰って行きました。

日本円にしてだいたい600円くらい。日本で言えばタクシーワンメーター程度の金額の
ために、なんで大のオトナが2人中国の山道を追いかけっこしたのでしょう。
不思議なことに言葉は全く通じないにも拘わらず、タクシーの支払を巡るトラブルは
世界共通なのでしょうか、だいたい意思が通じるようです。運転手側は「払え」乗客側は
「嫌だ」というのが基本路線。その他のケースでも私は日本語しか使いませんでしたが、
かえってその方が気持ち良く主張ができるようです。   (おわり)
(2002年のメルマガに掲載しました)
http://homepage3.nifty.com/kamakurakoka/