日本人留学生いろいろ 其の二

 四川旅行3週間を共にしたY田さんは、今年30歳、同い年なのでなにかと気が
合うのだが、彼女の前の職は有名な大豆食品メーカーで、黒龍江省産の大豆を輸入
して原料にしていた。そのため毎年視察団をハルビンに送っていたのだが、彼女は
まったく関係ない部署にいたため、社長が気まぐれに「今年は女性を送ろう」と
いいだし、その抽選に自分が当たるとは思ってもみなかったし、これがきっかけで
ハルビンに魅せられ仕事を辞め留学するとはもっと思ってもみなかったという。
 確かにハルビンは冬が厳しい分、夏、緑真っ盛りの時期がとても美しい。
どうやら、Y田さんはそこに魅せられてしまったらしく、また幼少時代を親父さん
の仕事関係から台湾で過ごし、中国語にも若干通じていたということもあり、留学
を決心したのだ。
 一年間というのが両親との約束だったので、残念ながら今学期で帰国してしまう
が、彼女にとっては「ハルビンで生活する」ことが一番重要であったので、だから
といって語学学習を疎かにすることはなかったが、その点、かなり楽しんだのでは
と思う。
 一番の趣味は中国のポップスを聴くことと、中国映画を観ることだったので、今
帰国を前にして、山のようにCDやVCDを買い漁っている。
 帰国後の予定はお見合いをすること。そして結婚。専業主婦になるのが彼女の夢
なので、ぜひうまくいって欲しいものだ。でも、中国語学習は続けていくとも言っ
ていた。

 T川さんは、大学時代に観光を専攻して、さる有名ホテルのフロントに就職した。
仕事柄、英語を話す機会が多かったのだが、中国語も話せるようになりたいと思っ
た。
彼は沖縄出身からか、北方への憧れが強く中国最北端の省都ハルビンを選択、仕事
を辞め、留学に踏み切った。28歳。とりあえず1年、長年付き合ってきた彼女を
待たせ、こちらで中国語学習を始めた。彼女を待たせることにかなり不安があった
というが、傍観者からすれば不安だったのは彼女の方だったと思う。気だてが良く、
しかも男前な彼は、すぐ人気者になったのだ。
 とりわけ、日本語科女生徒からの人気が高く、知り合いが次から次へと出来た。
そうこうしている内に、日本語科の生徒がどんどんかわいくてたまらなくなって
きた。
 T川さんとは同じクラスで、はじめ一緒に勉強していたが、彼の方針が変わって
きていることにはまったく気づかなかった。そう、彼の目的は語学留学から、日本
語教師になることへ変化していたのだった。

 先学期の終わりになって、日本語科に来る予定だった日本人教師が突然、来られ
なくなったというアクシデントがあった。慌てた大学は、日本人留学生の中で教師
の資格を持っている生徒を探し始めた。彼は無論持っていない。白羽の矢を立てら
れたのは別の留学生であった。が、彼は気骨のある人間。熱意とやる気だけで説得
し、ついに念願の日本語科教師になってしまったのだ。エライ!

 初めての教師体験、ということで最初は試行錯誤の連続、四苦八苦していたが、
最近は随分板に付いてきたようだ。待たせていた彼女とは、夏休み帰国したときに
婚約を結び、自由業の彼女を時々ハルビンに遊びに来させている。
(2002年のメルマガで掲載したものです)
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