9月12日(木) 新旧が交錯するまち―香格里拉

山を下りて永生飯店のある通りの入り口にある喫茶店でひと息入れてから、徒歩で
街まで戻る途中、チベット風近代建築ともいうべき新華書店で"香格里拉"の名の
由来となったジェームズ・ヒルトンの小説"Lost Horizen"の最新訳『消失的地平
線』(海天出版社)とVCD"心中的日月―香格里拉"を入手。
ホテルで少し休んでから、亜格賓館向かいにある農貿市場"香格里拉購物中心"を
覗いてみました。両側にずらりと並ぶ露店には食料品なら各種野菜、肉、生きた
ヒルまで、さらには生活用品や雑貨までなんでも揃っていますが、マツタケだけ
は旬を過ぎているせいか見当たりません。

香格里拉の街でいちばん目に付く看板といえば、"虫草"(冬虫夏草)、高山病の
特攻薬"紅景天"、チベットナイフの"[上下]卓刀"の三つ。有名なチベット薬でも
ある"紅景天"はアンプル3本入りで30元くらいからあります。わたしはホテルの
隣にある薬屋さんで"珍珠七十味丸"(西藏自治区藏薬厰製 3粒入り60元)を買っ
てみました。主成分は真珠、亜瑪瑙(めのう)、藏紅花(サフラン)、牛黄(ご
おう)、麝香(じゃこう)など、血行を良くする効果があるようで、中風や半身
不随のほか脳溢血や心臓病、高血圧にも用いるようです。

徳慶往復の明日、明後日はお土産など買う時間もないので、きょうのうちに買い
揃えておこうとマオ牛の干し肉やチベット歌謡のCDなど買いこんで、散客中心
で碧塔海観光に参加しているシルップさん夫妻を待つことにしました。
ところが現れたのは同じバスツアーに参加したあの日本人青年のみ、かなりきつい
行程だったようで年配のシルップ夫妻にはこたえたのでしょう。結局明日の徳慶
行きツアーはキャンセルに…、かといって他のところへ行く気も起こりません。
日本人青年は明日、四川省の得栄(デロン)へ向かうというし、しかし、なんと
してもあきらめきれない気分です。

とりあえずマツタケだけは今晩のうちに食べておかないと…、
ほとんどヤケな気分で、
かの日本人青年と"マツタケ"の文字探しに出かけることにしました。
もっともそれと思しき付近はなんども往復していながら見つけられなかったことを
思うといっそう歩みも重くなりがち。
そんな時ふと香巴拉大酒店一階にあるレストランのガラスに"菌"の文字
―菌といってもウィルスじゃなくてキノコのこと―
旬を過ぎた今ごろとなってはそこいらの食堂ではもう食べられないマツタケ料理も、
ここならきっとあるに違いありません。

服務員の女の子に尋ねると案の定、何種類ものマツタケメニューを見せてくれて、
しかもホテルのレストランにしてはいちばん高い
"マツタケとウコッケイの薬膳スープ"で78元、
それにマツタケの炒めものが32元など思ったよりも安値。
残念ながら土瓶蒸や焼き物はありませんでしたが、
その他にいろいろとっても二人で130元というお手ごろ価格で
日本では到底考えられない贅沢なマツタケ三昧を楽しみました。
ただし香りはいまひとつ、除虫薬さわぎで日本から差し戻されたものかも…、
いえ、きっと心に懸かることがあったからかもしれません。

なんとかして梅里雪山を見たい、たとえ一人でも車をチャーターして行こう、
そう決心すると、青年をひとり残しさっそく行動に出ました。
まず道でタクシーを止めて聞いてみます。
食事・宿泊を別にして車代往復800元を提示してみましたが、
道も悪く片道200キロ近くある徳慶まではとうてい行ってくれそうもありません。
そこで最後の手段―迪慶賓館旅行社に駆け込みました。
すでに夜の8時近く、蛍光灯はついていましたが誰もいません。
もうみな帰ってしまったのだろうか?
親切にもホテルのビジネスデスクの女性が電話を入れてくれたおかげで、
すぐに一人の女性職員がやってきて、
事情を話すとさっそくあちこちに電話をかけて車を手配してくれました。
 「徳慶までは片道180キロ、それに道も悪いので車代だけで往復1,100元かかって
しまうの、それでもよろしいですか?」
もちろん異論のあろうはずがありません。
その中には当然旅行社の手数料も入っているのですし。
 「車種はサンタナ、運転手さんはヤンさんって言います」
 「ああ、楊貴妃の"楊"さんですね、というと漢族の方?できれば女性の運転手さん
のほうが…」
と、やや不安げなわたし。
 「彼はチベット族なの、大丈夫!うちの旅行社が保証するわ、
彼はだれにでも好かれるのよ、それにいざとなったら頼りになるし」
チベット族と聞いてなぜか理由もなく安心してしまいました。
 「明日は8時の出発です、明後日の宿泊先もこちらで手配することできますが
如何ですか?」
もちろんそれはぜひともお願いしたいところ、
かくして迪慶賓館旅行社に全てお任せすることになりました。

(6日目おわり)
次回からはいよいよ梅里雪山へ!お楽しみに!
(2003年のメルマガに掲載したものです)
http://homepage3.nifty.com/kamakurakoka/