9月13日(金)〜14日(土) 梅里雪山の懐へ―徳欽一泊小旅行

屏風のような岩山がそそりたつ海抜4,292メートル地点を越えると道は一気に下り坂に。
このあたりの道路はすでにきれいに舗装され、周囲の景色にも緑が増えはじめるとやがて
左手に雪山らしきものが見えてきました。

 「タシさん、あれ太子十三峰じゃない?」
太子十三峰というのは梅里雪山(カワ・カルポ峰)を主峰に、いずれも海抜6,000メートル
を越す十三の峰からなる連峰です。
 「ああ、雲が厚いな」
ややため息混じりの返事。

ほんの少し見えていた山の端は、ほどなく左手視界いっぱいにその姿を現しました。
山から立ち上って天に昇る雲の裾から、まるで氷の階段のように二本の氷河が下りて
きています。これが梅里雪山、チベットの人たちが神の山と仰ぐカワ・カルポ…。
わたしたちはここでしばらく雲の中から主峰が現れるのを待ちます。

 「オンマニペメフム…オンマニペメフム…、うん、絶対現れるぞ!」
タシさん、にわかに片手の平を鼻先に立てて祈りはじめました。が、なかなか雲が上がる
気配はありません。そこでさらにその先の仏塔(チョルテン)がある展望台まで車を
進めることにしました。

 「おおっ、出たぞ、出たぞっ!オムマニペメフーム…」
逆光に白く反射する雲を貫き従えた主峰カワ・カルポ、チベット八大聖山の筆頭は
思い描いていたよりもはるか高いところに浮かび上がるかのように、ついにその神々しい
姿を現してくれたのでした。

この調子なら明日もよいお天気が望めるかもしれない、すでに午後4時を回っていました
が、わたしたち一行四人は朝焼けの梅里雪山を見るために、きょうのうちに"明永氷河"
まで行くことにしました。
明永氷河とは梅里雪山から流れ出る大氷河の一つで、正面に見える二本のうち右側に
あるのがそれです。

展望台を過ぎるとまもなく、左手下方の山間に抱かれるように横たわる徳欽の町が
見えてきました。どことなく温泉街を思わせる町並みをあっという間に通り抜け、
一路その先の明永氷河を目指します。すでに雲はきれいに晴れて、前方に梅里雪山の
シルエットを仰ぎながらカーブの多い山道を崖沿いに走ります。

ところがこの先の道には数ヶ所、土砂崩れのため寸断された跡が残り、すいすい進むと
いうわけにはいきません。土砂にタイヤを取られながらもなんとか通過すると、
明永と徳欽を結ぶ路線バスに出会いました。
さすが土地のバスだけあって道慣れしているようです。