剣門蜀道 編

古より中原と巴蜀を結ぶ交通路「古蜀道」のなかでも、広元市付近をとくに
「剣門蜀道」と呼ぶが、ここは三国志などの歴史の舞台として有名である。
四川省には多くの世界遺産などの超一流観光地があって、それらに比べると少々
見劣りする感はあるが、中国ならではの悠久の歴史を感じられる鄙びたマイナー
観光地…として「剣門蜀道」を紹介しようと思う。
 BC4世紀に秦の恵王が蜀王を欺いてこの地に道を敷かせ、その道から蜀に侵入し
た、という記載が史記にあり、この地が歴史に最初に登場するエピソードだ。
以来、軍事・交通の両面での要衝として、人と物資の行き来が途絶えたことがない。
現在では、中国鉄路宝成線が広元を通っているほか、成都から西安に続く高速公路の
建設も進んでいる。

広元

広元市は、四川省の北部に位置し、陝西・甘粛2省に接している。
今回私たちが訪れたのは、昭化故城・明月峡・剣門関・翠雲廊などで、いずれも
広元市に属する。その中心が広元であり、2002年秋、私たちは鉄道で成都から広元
へと向かった(2002年末、成都〜広元間高速公路が開通し、成都から3時間で着く
ようになったそうだが…)。
朝、成都北駅を出た広元行き旅游列車は6時間かけて終着駅である広元駅に着く。
バス路線の充実のせいか、列車内には空席が目立つ。旅行シーズン以外は、座席の
確保に苦労することはないだろう。
広元は開放都市ではあるが渉外飯店は少なく、外国人は広元賓館に宿泊することに
なる。
広元賓館へは駅前からタクシーでワンメーターの距離。市内バスでも行けるが、
田舎のタクシー初乗り料金は安いので、あえてバスを利用するメリットはない。
もっとも駅前にたくさんある安宿屋に呼び込まれるまま宿泊するのも手だ。
 
皇沢寺
夕食にはまだ時間があったので、町外れの名所、皇沢寺を訪ねた。
広元駅付近からであれば、女皇路を嘉陵江沿いに歩けば、20分ほどの距離だ。
私たちはまだ土地勘がなかったので、行きはタクシーを使った。
この寺は、中国で唯一の女帝、則天武后ゆかりの寺として有名だ。則天武后の像を
彫った石碑があったが、なよっとした感じの美人だったので、ちょっと予想外だっ
た。石碑や摩崖佛の石窟など見るべきものはたくさんあるのだが、なかでも、
養蚕の様子を描いた「蚕桑十二事図」石版は、細かい描写がおもしろい。
皇沢寺とは関係ないが…成都のパンダ繁殖センターの博物館に、日本に最初に
パンダを送ったのが則天武后だという展示があった(無事に日本に着いたかどうか
は知らないが…)のを思い出して、日本人としてはちょっとだけ則天武后に親近感
を覚えた。
帰りは寺の前にバス停があるのでバス利用も便利だが、せっかくなので、嘉陵江を
見ながら歩いた。嘉陵江は長江の支流で、流れに沿って南下すると重慶に着く。
嘉陵江もまた、古来水運路として重要性を持つのだが、なぜか「嘉陵」と聞いて
いちばんに思い出すのが、中国製バイクのブランド名だったので、苦笑い。
歴史を感じながら散歩しようと思ったのに、現代生活に思いっきり毒されている
ようだ。
                                (つづく)
(2002年当時の内容です)
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