番外編 オヤジ魯国を行く


(孔廟)
儒学や歴史について薀蓄のない私としては、世界文化遺産「孔廟・孔府・孔林」を
語りにくいのだが、庶民的な目で面白いと思うところを紹介してみようと思う。
まずは、孔廟から。
孔廟の南側に「万仞宮牆」と書かれた門がある。曲阜旧城の正南門だそうだ。
運よく西脇の扉が開いていたら上に登れる。
そこから北を眺めれば孔廟が一望できる。
手前に並んだ牌坊以外はおおむね樹木の陰に隠れて屋根の一部が望める程度だが、
それもまたこの廟の木々の多さを物語っていて壮観である。
孔廟は赤い壁に周囲を囲まれているが、壁の外側、正面中央のレイ星門を挟んで
左右に「下馬碑」がある。読みやすい文字で意味も分かりやすい。
ほとんどの観光客に見向きもされないが、健気に800年以上も立っている碑である。
正面中央には、巨大な石作りの牌坊が並ぶ。解説は専門の書物に任せるとして、
オヤジ的には「太和元気坊」がお気に入りだ。
単純に名前の感じから「これから孔廟を見倒してやるぞ!」と元気が湧いてくる
ような気がするからだ。ちなみに、次の聖時門までは門票(チケット)を買わなく
ても見学できる。
廟内には、名のある多くの、しかも巨大な石碑が林立している。その多くは、
一見カメに見える台座に載っている。
皇帝が建てた石碑は、そういう作りになっているものらしい。
このカメのような動物は、竜の第一子で贔屓(ひいき)と呼ばれる。
重いものを背負うのが好きなのだそうだ。
では、竜の第二子は誰だろうと考えていて、ふと思い当たった。
きっと贔屓は第二子より「ヒイキ」されていたはずだ…!?

話は元に戻って、石碑の中には、唐代の668年に建てられたもの(最も古い)、
贔屓の台座を加えると65トンもあるもの(最も大きい)、パスパ文字が書かれた
もの、などがあって碑文の内容・重要性が分からなくてもそれなりに楽しめる。
メインの建物の大成殿は中国古代三大殿と称され…(どのガイドブックにも書か
れていることなので、省略!)、深く竜を彫り込んだ28本の石柱が素晴らしい。
太和殿をはじめ北京紫禁城の全ての建築には、
このような立体彫りの柱は見られない。
台湾や福建の廟では深く彫り込んだ石柱をよく見かけるが、時代や地域で様式が異な
るのだろう。詳しい方がいれば是非ご教授願いたい。そういえば横浜中華街の関帝
石柱は、福建の職人の仕事と聞いた記憶がある。
孔廟で見逃してはならないのは、東路(東側の並び)の孔子故宅だ。
そもそも孔廟自体が孔子の死後一年後にその旧宅を廟に改め以後拡張されてきたもの
なので、まさにここが孔子が暮らした場所なのであろう。
「孔宅故井」と「魯壁」が観光客に人気である。
特に魯壁は、秦の始皇帝焚書をおこなった際に儒家の経典を孔子故宅の壁に塗り
こめた故事に由来している。「焚書坑儒」という世界史の教科書でお馴染みの言葉を
思い出して、得々とする日本人は多いと思う。もちろん、今の魯壁に書物が塗りこめ
られているのではない。くれぐれも書物を探し出そうとして壁を壊さないように…。
孔子の故里は「闕里」と言うらしく、ここも別称「闕里故宅」と呼ばれる。
なお、孔廟を出て東側に闕里街という通りがあり、闕里坊が建っている。
土産物屋街なのだが、由緒正しき名を持った通りで、見逃されがちだが鐘楼がある。

                            (つづく)