一時帰国編

この華僑からも”帰国すれば政府が同じ待遇を
保障するって話はホントか?”と聞かれた。
どうやら、彼らにとって、かなり気になる話題らしい。
ホントだよ、今、国を挙げてすごい熱心に呼び戻しているよ、と答えたら、
「でも、どんなに待遇が良くてもやっぱり帰りたくない・・・」という。
何で?たとえば今の年収を、中国で同じだけ貰えるとしたら
アメリカの10倍くらい良い暮らしができるでしょ・・・と言ったら、
「確かにそうなんだけど、でも、やっぱり帰りたくない」という。
子供の生育や教育の環境を考えると、やはりアメリカには
及ばない。先進国は暮らしやすいよ・・・としみじみと言っていた。

治安だってアメリカより良いでしょー、と、言う私に、
アメリカの生活は忙しいし、物価が高いから贅沢もできないけれど、
やっぱり自由なんだ。僕は祖国を愛しているし、
家族を愛しているけど、でも今さら中国では生活できない」と言っていた。
そして、「じゃあ、お前は一生、中国で暮らしたいか?」と聞かれ、
中国は好きだけど、やっぱりいずれは日本に帰りたい、というと、
「そうだろう、みんなそうなんだよ・・・。
好きとか、そういうんじゃないんだ」と、言っていた。

おそらく、これは彼の本音なのだと思う。

海外に出て、外の暮らしを知ってしまったら、
海外の生活に慣れてしまったら、今さら戻れない・・・、
そう言っている中国人を私は何人も知っている。

海外での暮らしが豊かとは限らない。
私にしてみると、渡中前に日本で働いていたころは、
仕事に追われる忙しい毎日だったし、物価は高いし、
精神的には決して豊かとはいえない生活だった。
今は時間的には日本にいた頃よりも、数段、余裕のある暮らしであり、
経済的にも、中国にいる分には、そこそこ豊かな生活を送れる。
だが、精神的にも時間的にも豊かだから、ずっと中国にいたいか、
聞かれたら、やっぱりいずれは帰りたい、と思う。

生きていく上で、お金と時間のバランスはとても難しい。
時間ばかりあっても、お金ばかりあってもいけない。
両方あればベストだが、なかなかそうは行かないのが常である。

外国から中国へ留学し、職を得ている私と、
中国から海外へ留学したまま、戻ってこない人たち。

まさに正反対であるが、彼らの気持ちは、
何となく、であるが、分からなくもない。

アフリカからの国費留学生の友人は、
どうやったら帰らずにすむか、と、
卒業前からリクルートに奔走していた。
貧しい国から”国費”で留学してきた人は、
やはり帰りたがらない人が多い。
帰国後の将来がどんなに約束されていたとしても、
やっぱり帰りたくない、と言っていた。

このアメリカ華僑の男性は、
「いずれ退職したら、夫婦で中国に戻ってのんびり
暮らすのも良いかもしれないけど、やっぱり戻ることはないと思う。
俺はもう国を捨てたんだ。」と言っていたのが印象的である。

”国を捨てる”、韓国人や中国人は、よくこの言葉を口にするように思う。
海外へと移民する人が多いお国柄のせいだろうか。
韓国人も中国人も、一般的に見て、愛国心はやたらと強いが、
一方で、”国を捨てて”移民した人も膨大な数である。

中国に骨を埋めるつもり・・・といって残っている日本人の
知人も何人かいる。
でも彼女たちの口から、日本を捨てた、国を捨てた、といった
言葉を聴いたことはない。
これについては、やはり国民性の違いなのかもしれない、と思う。

さて、次の号では、アメリカで生まれ育ったアメリカ華僑の女性について
お話しよう。
                   (一時帰国編おわり)

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