ハルピン極寒編

久々の旅の目的地はハルピン、そして今回の目玉は氷灯祭。
とてもささやかな旅なのだが、実は出発前はかなり複雑な気持ち
だった。
理由はもちろん、「寒い」から…なんといっても、−20℃だ。
関西出身の我々にとっては、想像を絶した寒さだ。
とにかく寒いのが嫌いで、北海道の雪祭りなんて見たこともないし、
冬になると、うちの近所のスーパーに行くのだって億劫になってしま
う。なのに、よりによって、なぜ真冬のハルピンなんかに?

最近、旅というものに慣れてしまったからか、はたまた、年を取った
せいなのか、少々珍しいと思われるものを見ても刺激的だと感じなく
なってしまっている。
そんなマンネリズムを脱却すべく、刺激を求めて一念発起したわけだ。
目指すは極寒の地、ハルピン。見るぞ、氷灯!

と、意気込んでみたものの、防寒対策…一体何を準備すればいいの
だろう。「寒さ」に対してド素人の我々は、考えれば考えるほど面倒
くさくなってきて、物の準備も心の準備もいい加減なまま、「寒くて
我慢できなかったら、すぐ逃げて戻って来よう…」と、軽い気持ちで
夜行列車に乗り込んでしまった。

北京からハルピンへは、高速バスや飛行機でも行けるが、やはり夜行
列車が便利だ。北京発ハルピン行きの特快列車は毎日2本出ていて、
どちらも夕方北京を出発し翌早朝ハルピンに到着する(帰りも同じく
、夕方ハルピン発翌朝北京着)。12〜13時間の列車の旅だ。
まだ春節休みの最中だったが、北京では市内の火車票売り場で、いと
も簡単に2日後の切符が買えた。

ただ、後で詳しく書こうと思うが、今回帰りの切符を手に入れるのに
ずいぶん苦労した。当たり前の事だが、春節などの人の移動の多い時
期は、交通手段の確保には、かなり注意した方がよさそうだ。
それから、バスに関しては、混雑する時期は特に慎重になったほうが
いい。春節の頃にはよく、過度の増発や過積載(人も載せすぎてしま
うらしい)によるバス事故のニュースを見た。

さて、ハルピン行きT71次列車の中で最初に極寒の地を意識した
のは、早朝5時頃目が覚めたときのこと。窓の外を覗こうとカーテン
をそっとあけて見ると、車窓の下側にびっしりと厚い氷が張っている。
結露した水滴が下に流れ落ちながら凍ったのだ。

外は一体どれくらい寒いのだろうかと、怖いもの見たさで氷を撫でて
みると、やはり冷たい。それに、製氷皿の氷に比べると透明度が高い。
さすがにハルピンの氷は違う…なぞと暖房の効いた車内で氷を客観視
しているうちに、6時19分定刻通りハルピン駅に到着、いよいよ初
めての−20℃体験だ。

列車が着く少し前から、車内の人々が思い思いに身づくろいを始め出
していた。皆、重ね着の達人だ。次から次へと着込む。ちょっと失礼
して、お母さんが子供に服を着せているのを眺めていたら、みるみる
間に山積みになっていた服が減り子供が着膨れてきた。

その手際のよさは、まさに職人芸だ。私も予定していたものを全て
着込み、雪だるまのような様相で列車が止まるのを待っていたのだが、
あまりに早くから用意をしたので、暖房の効いた車内では暑くて汗を
かいてしまった。身づくろいひとつ要領よくできない。
−20℃初心者としては、列車を降りる寸前、実は、かなり不安に
なっていた。(つづく)
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