隣人編

さて、だいぶ脱線したが、隣人の話に戻ろう。
私の住んでいた部屋は、大家さんがドイツ留学帰りのレストラン経営者で、
外国人にしか貸さない、と言っていた、という話も書いたと思う。
私の前の住民は欧米人だったというので、”見るからに外国人”が住んでいても
密告されなかった、というのが、今の部屋の決め手のひとつとなっている。

余談であるが、中国では未だに”密告”という制度?が生きている。
以前、旅行で行った先で乗った観光バスには、”車内禁煙!違反者には
100元の罰金!”とデカデカと書かれていた。
そしてその横に”密告者には50元の謝礼!”とあり、思わず笑ってしまった。
これは笑い話であるが、中国では密告と賞金?謝礼?が、
ほぼセットになっているので、密告者が多いのだと思う。

さて、隣人の話に戻ろう。
お隣さん一家は、外国人に接し慣れているようで、引っ越した直後、
「隣の者だけど、あんたたち、どこの国の人?困ったことがあったら、
いつでも言ってね・・・」と興味津々の様子で、突然電話をかけてきた。
ご主人の妹さんが日本で働いているとの事で、ドアを出たところで出くわすと、
大体15分か30分間は、捕まって立ち話をする羽目になる。

息子はちょっとオタクっぽい小太りの青年で、目を合わせて挨拶できないタイプ。
時々、モモヒキ姿で自転車を一心に磨いているところを見かける。
パパとママはもう退職して、悠々自適といった感じで暮らしている。
ママはおしゃべり好きで親切な、いかにも北京人といった感じで、
いろいろと心配してくれたり、なにかと世話を焼いてくれる。
すっごい早口の北京弁なので、ときどき聞き取れないが、
私が聞き取れているかどうかなど、お構いなく、
それこそ機関銃のようにしゃべり続けるのだ。
このおばちゃんと暮らしたら、さぞや聴力があがるに違いない。

そして、この家のおばあちゃんが、すごーく可愛いのだ。

各フロアにダストシューターがあるのだが、少し大きめのゴミだと、
捨てられない。
ある朝、ちょっと大きめのゴミ袋を持って、ダストシューターに捨てようと
しているところを、ちょうど、そのおばあちゃんが通りかかった。
早安!」(おはよう)と笑顔で挨拶したら、彼女が、「ノー、ノー」と、
私の手にするゴミ袋を指差して首を振っている。
「何?」と中国語で聞いたら、「ノー、ノー」と、悲しげに首を振るだけ。
どうやら、外国人なだけに、私には中国語が通じないと思っているらしく、
ひたすら、ノーノーと繰り返している。
ううっっ、このおばあちゃん、かわいーっ・・・と、ちょっと楽しくなってきた。
私も、ノー?と首を振ってみた。
すると、おばあちゃんは、イエス、イエス、とぶんぶんと首を立てに振る。
ん?何がイエスになったんだろう。
良く分からないが、Oh、Yes、いえーすっ、と同調しておいて、
ゴミを捨てようとしたら、また、慌ててノー、ノー、と言っている。
どうやら、ゴミを捨ててはいけないと言ってるらしい。
中国語で「何で捨てちゃ、だめなの?」と聞いたら、
「そのゴミは大きいから、詰まるかもしれない、だから、”ノーノー”。
それは下のゴミ箱に直接、捨てた方がいい」と、言う。
ノーノーだけ、英語で言うあたり、めちゃめちゃ良い味を出しているのだ。
私の前の住民とは、こうやってイエスとノーだけでコミュニケーションを
取っていたに違いない。
インターナショナルなおばあちゃんに、ほのぼのとした朝であった。
                      (つづく)

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