寧夏・内蒙古 編

銀川へ
今回は、寧夏回族自治区内蒙古自治区の旅だ。
このところ、中原とその周辺の漢文化圏を旅することが多かったので、
かつての辺境、漢文化と異民族文化が交錯する地への旅は、出発前から
いつもと違う新鮮さで溢れていた。モンゴル語会話集は準備した方がよ
いのだろうか、羊肉を食べるためのマイ・ナイフは準備した方がよいの
だろうか、虫除けは…。といっても、銀川・包頭・フフホトの三都市+
その周辺の旅なので、何ひとつ特別な準備は必要なかったのだが。

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まずは、銀川へ。いつものように北京西駅から出発だ。午後1時40分発、
翌朝8時40分着の快速列車の硬臥上段の切符を握りしめ、優先乗車の特
典付き茶座(喫茶室)からホームに向かう。茶座を利用すると、大荷物を
持った人でごった返している一般の改札を通らなくていいし、一足先に乗
車できるのだ。比較的荷物の多い我々はいつもこの方法で一番に列車に乗
り込み、さっさと自分たちの荷物を棚に納めるのだ。そして涼しい顔をし
ながら硬臥上段の乗客用に準備されている(と我々は理解している)通路
の窓際についた簡易座席に座って、続々と乗り込んでくる人々を観察しな
がら発車前のひと時を楽しむ。私はこの時間が結構好きだ。長距離列車に
付き物のお別れシーンが、まさに目の前で繰り広げられる。手機(携帯電
話)で窓ガラス越しに別れの言葉を交わす今時のカップルから、乗車口で
抱き合い泣きじゃくる古典的なカップルまで、傍目に微笑ましかったり、
こちらが恥ずかしくなったり…。

今回の旅は、そんな感傷的なひと時を現実社会の厳しさで掻き消すような
出来事から始まった。乗車口横の踊り場から大声が聞こえてきた。かなり
お怒りの様子である。見ると白髪のじいさんが車室のドアに青年の乗った
車椅子を押し当てながら叫んでいる。どうやら通り抜けられないようであ
る。騒ぎを察して女性乗務員が駆けつけた。しかし、ドアの幅が車椅子よ
り狭いのはどうしようもないし、青年を背負って寝台まで運ぶにも非力す
ぎる。らちがあかないまま言い争っているうちに、収まりのつかないじい
さんの怒りは、切符購入時の出来事にまで遡っていた。下半身に障害を持
つ息子に付き添って寧夏から北京の病院に診察のためにやって来たのだが
、帰りの列車の切符が思うように買えず、やっと手にした切符が二枚とも
上段(硬臥は上中下三段のベッドからなる)だというのである。

中国の硬臥寝台車は上のベッドほど値段が安い。しかし、天井までの距離
が極端に近いうえ乗り降りが不便で、倹約家の学生やプライバシー重視の
外国人旅行者以外にはあまり好まれない。まして障害者や老人はベッドに
たどり着くことさえ難しい。そんな硬臥上段を障害者に売りつける中国鉄
路局のサービスの悪さ・無慈悲さを周囲の人々に訴え始めたのだ。女性乗
務員が反論に足りる道理を持ち合わせるわけもない。そして、ここは“面
子の国”中国である、とうとう逆ギレして「私のせいじゃないわよ!私は
ルールに従ってやっているだけよ!」と何を言われてもその一点張りで取
り合わない。結局、様子を見かねた親切な男性が青年を彼の寝台まで運び、
事態はどうにか収拾した。

我々外国人の目から見ると、大喧嘩のように見えるのだが、あるいはこれ
は障害者を家族に持つ人たちがこの国でなんとかやっていくための挨拶の
ようなものなのかもしれない。普通に人に助けを求めたのでは誰も助けて
くれない、自分たちだけで解決しようにも限りがある、なら周囲の人々に
最大限のアピールをして協力者を探し出すしかないのかも…。

2008年北京オリンピックに向け、いよいよ発展の目覚しい中国・北京
ではあるが、身体障害者に対する認識はまだまだ遅れている。確かにオリ
ンピックに続けて開催されるパラリンピックに向けてバリアフリー施設の
建設やノンステップバスの導入は始まっているが、形はできてもなかなか
頭がついていかない。また、インテリ層でも理屈はわかるがまだまだそん
な余裕はない、というのが一般的な意見であるようだ。


ある女性が、「ここでは街の至る所に危険が潜んでいるのよ。健常者だっ
て安心して暮らしていけないのに障害者の便を図る余裕はないわよ」と、
冗談交じりに話してくれた。実のところ、彼女は道を歩いていてマンホー
ルにすっぽりとはまった経験があるそうだ。

余談が長くなってしまったが、列車は定刻どおりに銀川に到着。銀川駅は
西夏区と呼ばれる新市街に位置する。我々はあえて駅前に宿を取ることに
した。このあたりは典型的な新市街で、ホテル・レストランや大型スーパ
ーなどが広い道路の両側に立ち並ぶ。旧市街に見られる漢文化とイスラム
文化の混沌から生まれた古い町の雰囲気はここでは感じられないが、旧市
街へのバスの便も多いし、市西郊の観光地へのアクセスも便利だ。そして
なにより重い荷物を持って旧市街へ移動しホテルを探さなくてすむ。
しかし、街の雰囲気を楽しむなら、老舗ホテル・星級ホテルがたくさんあ
る旧市街(興慶区)に宿を取るべきだろう。
                       (つづく)

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