回想:瀋陽へ留学

さて、コリアンタウンの話に戻ろう。
西塔の表通りはハングル語の看板が立ち並ぶ繁華街なのだが
一本裏路地に入ると、雰囲気も一変、瀋陽で一番治安が悪いと言われて
いる場所で、
今で言うところの脱北者も多かった。
もちろん私には見分けがつかないが、韓国人の友人いわく、
前出したとおり、朝鮮族の話す朝鮮語北朝鮮人が話す朝鮮語
韓国人の話す韓国語とはお互いコミュニケーションを取るには困らないが、
違いが顕著なので、あの人は朝鮮族、とか、あの人は北の人間、と
簡単に聞き分けられるのだそうだ。

私は韓国人たちとツルむことが多かったので、西塔にも頻繁に行ったが、
買い物をしている時や、歩いている時など、急に私の腕をひっぱり
「早く行きましょう、あれは北の人間よ・・・」と足早に遠ざかるのだ。
韓国人いわく、南北の人間が話をしたり、接触することが
禁じられているのだそうだ。
特に北朝鮮人は韓国人と接触を持つとスパイ嫌疑をかけられやすい
とのことで、「下手に話しをしたら、相手にも迷惑がかかるから」という。
「南北の戦争は終わっていないの、今は停戦しているだけ・・・」と
言っていたのが、とても印象的である。

その、西塔では、物乞いや露天商など、脱北者を多く目にした。
今でこそ中国政府が脱北者の取り締まりをしていて、
みな潜伏していたりするようだが、当時は、街のここそこで目にした。

まだハンミちゃん一家の駆け込み前だったので、脱北者という言葉も認識
もなかったが、

ひったくりをしたり、悪いことをしている人も多く、子供の物乞いは裸足で
洋服の裾をつかんでは、ずっと後を追ってきたりしたので、
私にとっては、脱北者=怖い という先入観がある。
様々な報道で、かわいそうな人たちだと知ったが、
やはり実際に、生活に窮してひったくりなどをしている人も多く、
手荒な真似をしたりする事も多いと聞くので、
中国における脱北者のイメージもあまり良くはない。


昔、何かの番組でアダモちゃんという黒い人が出てきた記憶があるが、
ある日、西塔に「アダモちゃん」がいた。
比較的若い男性で、汚れで全身、真っ黒で黒光りしていて
髪は汚れて延び放題、身につけているものは腰布だけで、もちろん裸足。
ある日、彼は放心状態で交差点の傍らに座っていた。
あまりにも完璧な姿のアダモちゃんだったので、ドッキリテレビかと
思って、
本気で周りを探してみたが、どうやらドッキリではなく、
本物の「アダモちゃん」のようである。
あまりのインパクトに目が釘付けになってしまったら、
韓国人が「あれは北から違法入国してきた人だ」と言っていたが、
恐らく、本当にそうなのだろう。
通行人をじーっと見つめていて、何をするわけでもなく、
ただ座っているのだ。
その後も同じ場所で何度か見かけたが、中国の暮らしにも慣れたのだろう
か、
見るたびに、ボロボロではあったが身につける布の量が増えて行き、
日に日に生気を取り戻していく感じで、目をギラギラさせて通行人を見て
いて、
獲物を物色しているように見えた。
あんなのが追ってきたら怖いなぁ、とその交差点を避けて通るようになっ
たが、
当時の瀋陽においては、脱北者のイメージはとにかく悪かったため、
ハンミちゃん一家が駆け込んだ際の領事館の対応が非人道的だと
非難された時も、西塔の交差点でギラギラと通行人を物色している
アダモちゃんの姿を思い出し、ある種、同情を覚えた。

西塔には、韓国料理店が立ち並び、韓国のCDやDVDを売る雑貨、
韓国料理の食材店、韓国サウナ、闇両替、チマチョゴリや韓国製の
化粧品などを売るデパート、スーパー、韓国系のホテルなどが
立ち並ぶ、韓国が凝縮されたエリアであった。
韓国人が経営しているお店や、朝鮮族の従業員などが多く、
どこにいっても韓国語が通じるので、韓国人の留学生は
中国語がしゃべれなくても一向に不便を感じなかったらしい。


治安がよくないことを知りつつも、私は週に何度も通っていた。
毎日、中華を食べるのは流石にキツイので、
飽きた頃には韓国料理が食べたくなるし、
西塔の闇両替もしょっちゅう利用していた。
前も話したが、闇両替と聞くと危ない感じだが、
中国では違法ではあるものの本当に一般的でどこにでもあり、
銀行にすら闇両替屋さんがいて、窓口で両替しようとしている人に
「こっちの方がレートがいいぞ!」と声をかけ、銀行職員も
黙認しているばかりでなく、時々、会話などをしていることもあったほど、
市民権を得た?人たちである。
流れの両替屋や、偽札などの心配があったが、きちんと店舗?を構えた
ところであれば、信用第一なのか、偽札をつかまされたことは
北京でも瀋陽でも一度もなかったし、「○○で偽札が混じってた」といった
話は耳にしたこともない。

あと、西塔の最大の魅力はサウナだった。
サウナのことを「マダムの時間」と呼んでいたが、毎週末に西塔にある
韓国系のサウナに行って、サウナに入り、湯船にゆっくりとつかり、
アカスリをして、全身マッサージと顔の美容マッサージをしてもらうのが
瀋陽時代の唯一の贅沢と楽しみだったように思う。
寮の自室のお風呂は狭く浅いため、常に半身浴しかできない状況で、
お湯が茶色く濁っていることも多く、本当にお風呂に入った、という気が
全くせず、ぬるいお湯がチョロチョロとしか出ないことも多々あり、
仕方が無いからシャワーで済ませることも多かったので
たまには大きなお風呂にゆっくり浸かりたい!!!と、切なる思いで
西塔にある韓国人お勧めのサウナに、片っ端から行きまくって比較し、
最終的には「水晶サウナ」という、サウナが一番のお気に入りになった。
週末にはサウナにでかけ、西塔で韓国料理を食べるのが
週末の日課であった。
だが、治安のよくない場所なだけに、知らないサウナにブラっと入るのは
あまりにも無防備なので、頼りになるのはやはり「口コミ」なのだ。
サウナもピンキリで、安いところは3元くらい、高いなところは数百元するの

だ。
価格が高ければ高級で衛生的というわけではないし、
健全でない場所も多い。
そんなところにうっかり入ってしまった場合は、大変である。
サウナの看板を上げているのに、狭いような名ばかりの
サウナには誰もいない上、サウナルームは電気が入っておらず、
冷え冷えしているし、湯船はなく、狭いようなシャワールームだけ。
薄暗い廊下の両脇には小さい部屋がつらなっており、
どうやら、女性が行くサウナではなかったらしい。
そそくさと出てきたが、入店しようと時点で、入り口で何か言ってよ〜〜、
と本気で思った。

そんなわけで、健全かつ衛生的なところを探す場合、口コミが一番、
信頼できる情報なのだ。

「マダムの時間」は至福の時である。
週に一度の贅沢・・・と言っていたが、サウナに入り、大きなお風呂に
ゆっくり浸かるのはやはり気持ちがいい。
私の一番のお気に入りのサウナは、衛生・サービスといった点で
コストパフォーマンスが高く、なおかつ家族揃ってやってくるような、
本当に健全な場所だった。

アカスリや美容マッサージ、全身マッサージに按摩のフルコースを
しても合計で100元ちょっとなのだ。

サウナ入浴料  15元
アカスリ      30元
美容マッサージ 30元
按摩       30元

3〜4時間、サウナでのんびりと過ごし、
お手軽に、韓国気分が味わえる場所であった。


今、思うと瀋陽の街の最大の魅力は、西塔のコリアンタウンと
韓国料理だったように思う。

北京には、こういった韓国式のサウナは多くなく、
しかもどこも高いので、そうそう行けない。
北京では韓国料理の値段が高く、味も西塔のほうが上だったように思う。

瀋陽の韓国料理はとにかく安くて美味しかったので、
韓国料理好きにはたまらない場所だろう。
私の友人も一部の人を除いて、みな韓国料理にはまっていたが、
逆に辛いものが苦手は人は、瀋陽ライフは辛く悲しいものだったらしい。

また、中華料理も韓国風というか朝鮮風味になっているものも多数あった。
中国の家庭料理で、家常豆腐というのがある。
本来は厚揚げ豆腐をしょうゆ味でからめた、甘じょっぱい茶色い料理なのだが


私が瀋陽でずっと食べていた家常豆腐は、厚揚げ豆腐を使う点は
同じだが、味付けが唐辛子の入ったラー油味で赤い色の、
辛〜い料理でだったので、わたしにとっては、それが「家常豆腐」だったのだ


後に北京へ転校した後で、普通の家常豆腐を食べたときに
「この家常豆腐、変じゃない?味が違うよ」と言って、えらく笑われた。
どうやら、私が食べていた家常豆腐が特殊なものだったらしいのだが、
家常豆腐=赤くて辛い料理、だと1年半信じてきただけに、すごい驚きだった


他にも、これ、瀋陽のと違う!!!といった料理が多く、
北京に行ったばかりの頃は、けっこう戸惑うことも多かった。

瀋陽だけの滞在で帰国した人の中には、帰国後に
日本の中華料理店で家常豆腐を食べて、
「これ違う!!!」と思っている人が少なくないに違いない。

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