お題: 涙の共同生活スタート

「先生に対してその態度はなんだ!」
きょろきょろと落ち着かずにあちこちを見回す妹さんに、突如軍人さんみた
いな怒り方をするのでびっくり!
とにかく林さんといえば、物静かな優等生ですんで、こんな知られざる一面
が!と驚き・・・。

でもって、妹さんはいきなり泣き出してしまって・・・
オイオイこんなスタートか。
台湾のすぐ側の島から、真っ黒に日焼けした小柄で眉毛の濃いちょっとやん
ちゃな感じの可愛い女の子がやってきました。
まだ、一言も日本語が出来ないので、いろいろと不安だろうけど、まあ、気
楽に新学期が始まるまで、ひらがなとカタカナを憶えて、簡単な会話ができ
るようになるといいよね。
などと(下手な中国語ですから、私にとっても日本語のまったく出来ない子
と暮らすのは勉強になるでしょう。)話しました。

25時間も長距離バスに乗ってきたので、ともかく疲てるだろうから、まず
は寝かせてあげましょうよと、休ませることにしました。

「先生っつ!申し訳ございません。妹は何も知らない田舎者ですから、礼儀
もわからない。こんなご親切をいただき、私はどれほど感動して感謝の言葉
もございませんっつ!」
「ぎゃー!!ちょっと、大袈裟!やめようよ。そんなの。気にしないいで。
こっちも中国語の勉強になるし、お互いいいんじゃないの。別に特別面倒を
見てあげるわけでもないし、気楽にやって。林さん厳しすぎだよ・・・いき
なり怖いよ・・・」
「先生っつ!妹は・・・妹は、本当にこれまで苦労してきているのです。私
の家は貧しい。両親は妹を学校に行かせることができなかった。妹が海産物
の工場で、苦労して働いたお陰で私は勉強することができた。だから、だか
ら・・・」
「うん。うん。まあ、わかるよ。(いや、そんなわかってないかも。)だか
ら、ちょっと落ち着いて。そんな心配しなくても大丈夫だから。(根拠はな
いけども。)いきなり怒っても意味無いよ。自然と慣れてくるよ。」
「しかし・・・先生、妹は礼儀がわかっていません。ですから・・・」
「そんな大袈裟に考えなくていいから。とにかく、ゆっくり休ませて。」
尚も不安げな林さんの激情に圧倒されつつ、それほど妹を心配して愛してい
るんだな・・・と。妹さんは横になると、すぐに寝息を立て始めました。
19歳ということでしたが、まるで15歳ぐらいの幼いかんじです。

妹さんの寝顔を見ながら、林さんは何度も何度も「どうか妹をよろしくお願
いします。厳しく教えてやってください。」と言っておりました。

夜、林さんは宿舎に戻り、妹さんとふたり。(妹さんとの会話は中国語です。
日本語にすると直訳すると大体こんなかんじ。なのでは・・・)
「お兄さんは、普段とても大人しい真面目な生徒なので、怒ったりする姿を
一度もみたことがありません。だから私は今日、大変驚きました。きっと、
あなたをとても愛しているからでしょう。大変期待しているようですね。」
「うん。もちろんわかってる。私のことをすごく心配してる。」
「あんまり心配されるとプレッシャーになるでしょう?」
「うん。ちょっと辛い。でも兄を理解してるから大丈夫。」
「工場の仕事は大変だったの?」
「大変なときもあるときはある。でも、大体は楽しかった。仕事は朝早くて
5時には工場に行く。これは眠いときは大変だけど、仕事が終わったあとは
工場で働いているみんなと一緒に遊びに行ったりして、楽しかった。みんな
とても仲が良かったから、私が工場を辞めるときは、みんなが泣いた。私も
とても寂しい気持ちになったけど、私も兄のように勉強をしたいと思ったか
ら。」
「そうですか。お兄さんは、本当にいつもいつも一生懸命勉強していたから、
日本語がとても上手で、私も大変お世話になりました。これから、あなたも
きっと勉強すれば、お兄さんのように日本語ができるようになりますよ。」
「はい。私の両親も私も、いつも勉強をしている兄を、特別に愛しています。
私も兄のように日本語の勉強を頑張ろうと思っています。」
「あんまり焦らないでいいですからね。」(私自身は中国語もっと焦って勉
強した方がいいぞ!)始終ちょっと照れながらもニコニコ話してくれたので
一安心。と、いうかんじで共同生活はスタートしました。
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