8月17日(金)ラサー成都ー広州(予定)

飛行機は一路、成都へと向かう。
日の出と共に空港に着き、夕暮れを見ながら機上の人となるのは、時間の
経過を実感するのにもってこいのシチュエーションである。
本当なら、西蔵との別れを惜しみつつ感動のうちに彼の地を後にしたかった
のだが何せ駆け込み乗車である。乗り継ぎもある。一刻も早く飛び立たねばと、
感傷にふける暇もなかった。

普通だったら決しておいしいと思えない機内食も、今回ばかりは完食である。
り「偉さん、広州、もうダメだね。」
前の席に座っていたので聞いてみる。
偉「いや、広州行き最終便は18:30。間に合うかも。」
り「ええっ!無理でしょう・・・。」
偉「チケットは取ってある。乗客、間に合わなければ待ってるでしょ。」
そう言って航空小[女且]を呼び止め、メモを渡し、何やら交渉を始めた。

キビキビと働く厳しい顔つきをした美人の航空小[女且]は、
「ちょっと待ってて。」
と言ってどこかに行ってしまうが、すぐにツカツカとこちらに戻って来て
偉さんに説明を始めた。
慌ててそーねいと聞き耳を立てる。

どうやら無線か電話を使って、地上と連絡をとってくれたらしい。
成都に着いたらみんなまとまってタラップを降りた所で待っていろ。
私から離れるな。
ロビーを通らずに直接、飛行機から飛行機に乗り換える。私が案内する・・・。

り「荷物は?」
偉「対了! 荷物があるんだ・・・。」
航「存包しているのか? 好了! 何とかする。
そ・り「頼もし〜い!!」
偉「あいよ〜。これで安心ね。」
そ「偉さん、みんなに言っとかんと・・・。」

中国人で、こんなにテキパキと対処してくれた人は初めて。
さすが”選び抜かれた”航空小[女且]。 感動である。

みな、一気に緊張が緩み眠りにつく。
この後、更なるハプニングが待ち構えているとも知らずに・・・。

眼下にたくさんの光が見えてきた。
都会、である。やっと成都に着いたのだ。
飛行機は無事着陸。沸き起こる拍手。みな満面の笑顔である。
すると、例の如く一斉に鳴り響く携帯電話。まだ飛行機は動いているのに、
もう立ちあがって荷物を降ろし始める。
一方では「今、着いたよ〜。いやぁ、8時間遅れだぜ!」と電話口にがなり
たてる

私達は乗り継ぎである。急がねば!!
クレオパトラのおばちゃんとおじちゃんが、真っ先に降りていく。
その後ろに23才が続いて行くのが見えた。
飛行機を降りると、タラップの下に例の航空小[女且]が待っていた。

航「これで全員か?」
24「ちょっと待って! 友達が!!」
り「ああっ! バスに乗っちゃってる!!」
偉「あいよっ!!」

慌てて偉さんや”謎”君、神戸の御主人で追いかけるがすでに遅し。
バスは到着ロビーに向けて走り出してしまった・・・。
航「行ってしまったのか? もう時間はない!」
り「偉さん!ちゃんと言わなかったの??」
偉「言ったよ、私! 急いで降りて、降りた所で待ってろって・・・!」
言葉とは難しいものだ。
私達は中国語で説明を聞いていたし、中国人が話す日本語の聞き取りにも
慣れている。
確かに偉さんは言ったのだろう。
でも”飛行機から飛行機へ直接乗り換えるから”という事を言わなければ、
まず一般の人は解らない。まさか、そんな超法規的な事が出来るとは思いも
よらないだろう。 中国だから、出来る事である。

乗り継ぎに間に合う、急いで降りて待っていろ、と言われれば、急いで飛行機
を降りて”荷物を取ってそこで待つ”と思ってしまったのは仕方のない事だ。
事実、彼女達はそういう意味に取っていた。

呆然と立ち尽くしていると、とってもハンサムな空港職員のお兄ちゃんが
片手にトランシーバーを持ち、眉間にシワを寄せてやって来た。
兄「広州に行くのは君達か?」
偉「はい・・・。」
兄「もうダメだ。広州行きはすでに飛んでしまった。最終便だ。もう乗れ
  ない。」
全「ええええっ!!!」
スチュアーデスのお姉ちゃんもびっくりである。

何で?私、連絡したのよ、と詰め寄るが、とにかく飛行機は乗客を待たず
に定刻通り飛んでしまったらしい。
舌打ちしながらスチュアーデスはどこかに行ってしまう。
取り残された私達は、そのハンサムな空港職員のお兄ちゃんに、
「いつまでここにいるんだ。」
と追い立てられ、仕方なしにバスに乗り込む。
り「偉さん、荷物は・・・?」
偉「あいよっ!」

私達は飛行機に乗れなかったが、あの航空小[女且]は荷物を何とかしてくれ
ると言っていた。ひょっとしたら、荷物だけ広州に行ってしまったかもしれ
ない。いや、私達が到着した時、すでに広州便はゲートを閉めていた。荷物を
積み替えられるわけがない・・・。

慌てて荷物のターンテーブルへと向かう。すると、ちょうどおじちゃんが自分
のスーツケースを1個、取った所である。
偉「みんな荷物取って、そこにいて!!」
偉さんは携帯を握り締め、どこかに行ってしまった。

荷物は次から次へと出てくる。ダンボール、木箱、ビニール製のショッピング
バッグ、竹製のカゴ・・・。ひと目で国内線の荷物だということが判る。
しかし私達の荷物は、おじちゃんのスーツケースが出てきたっきり、一向に出て
こない。
「もしや・・・。」一瞬、不安が頭をよぎる。


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