「反日」解剖 歪んだ中国の「愛国」2005文藝春秋水谷 尚子著を読みました

著者を知ったのは、北京に滞在していた99年4月に北京・中央テレビの「実話実説」というトーク番組に出演していたのを視聴したのがきっかけです。

そのころ、あちこちの書店や駅のKIOSKのようなところで南京事件をめぐる裁判に絡んでいる元日本軍東史郎氏の『東史郎日記』を見かけていたのですが、ちょうどその東史郎氏とその支援者が訪中していて「実話実説」に出演、東氏は場内の圧倒的な支持で迎えられていました。著者も視聴者代表で出演、東発言や東史郎南京事件裁判について批判的見解を述べていて、ずいぶん勇気ある女性だと思ったことでした。その後「世界」で著者がもともとは旧日本軍の細菌戦や日本人の反戦活動の研究、聞き取り調査をしている学者であることを知りました。その後著者のメディアでの主舞台はSAPIOや諸君などに移り?ましたが、氏は、当事者にあって話を聞くという手堅く根気の要る手法を一貫してとり続けています。
反日の実態を探るため、いちはやく西安の寸劇事件関係者や中国の反日活動家、反日デモ被害者から直接取材し、冷静な分析を報告してきました。アジア杯サッカーの現地ルポなどフットワークの軽さも、事実分析の多い中国関連書籍が多い中で光ります。
個人的にも、同世代である著者の学問対象の変遷過程に強い共感を持ちました。
単なる反中本ではなく、著者の願いは「両国の普通の人々が今よりずっと互いに理解しあえる時代になることを願って」に凝縮されているといえましょう。と同時に学問的実証とイデオロギーを混濁しがち(と見ているようです)な上世代の「親中」学者への抜きがたい不信もあるようです。