上海出張編その2

上海に出張と言えば、聞こえが良いが、よく「何しに行くの?」と聞かれる。
私の本業は翻訳ということになっているので、何も上海くんだりまで
行かなくても・・・と思うらしい。
全くその通りなのだが、私の会社は従業員が20人に満たない小さな会社なの
で、大企業だったら間違いなく分業だと思うのだが、翻訳、製作、メールの送付、
顧客管理から営業活動まで、全部やらなくてはならないのだ。
自分で作って売りに行く、まるで売れない作家になった気分である。
確かに辞書とパソコンがあれば、どこでも翻訳できるし、電話線さえあれば、
メール配信もできるのだが、上海出張のたびに辞書を4冊と自分のノート
パソコンを背負っていくので、かなりの大荷物で移動も楽ではない。
パスポートがないと、中国では国内線の飛行機にも乗れないので、
最初の上海出張の時は、ビザの申請中でパスポートがなかったので
一晩かけて汽車で移動した。
中国の汽車は、好き嫌いがはっきり分かれるが、私はあまり好きではない。
「泥棒が乗っています、ご注意ください」とアナウンスがかかったりすると、
おちおち眠れないし、近くでイビキなどかかれたら、もう最悪の旅である。
その時は、ボスがグリーン寝台のチケットを買ってくれたのだが、グリーン車
コンパートメント式になっており、個室に知らない中国人のおじさん3人と寝る
羽目になった。
9時を過ぎたら、本を読んでいる私に、電気を消せ、と言う。
「小学生じゃあるまいし、こんな時間から寝れないってば」と思ったが、
多勢に無勢、消すしかない。中国人は本当に早寝・早起きなのだ。
10時半頃に若い女性の車掌さんがきて、向かいベッドのおじさんを起こしたが、
おじさんは生返事をしたまま、また寝てしまった。
そして一時間ほど経ったとき、そのおじさんは「しまったー」と言って
飛び起き、なにやら大声で騒いでいる。
何かと思えば、どうやら降りるはずの駅を寝過ごしたらしい。
ふーむ、さっきのは途中下車の人を起こしに来たのね、と思っていると、
そのおじさんは、車掌さんをつかまえて、「何で起こしてくれなかったんだ」
とえらい剣幕で怒っているではないか。
「お前が起こさなかったせいだ、どう責任取ってくれるんだ!」とまで言っている。
「おーい、いい大人が何言ってるのー」と笑えたが、
ここで笑ってしまったらエキサイトしているだけに危険なので、
布団をかぶって、ひたすら寝たふりをしていた。
真夜中12時を回っているのに、車両中に響き渡る声でケンカが始まり、
車掌さんも負けずに、「あたしは起こしたわ、あの女の子に聞いてみなさいよ、
彼女が証人よ!」と、怒鳴り返している。
うっ、しまった、水を向けられた?・・・と思いつつ、寝たふりをしていれば
まさか、起こしたりしないだろう・・・と思っていたのだが、そのまさか、で
「おいっっ、起きろ」と二人がかりで、叩き起こされた。
エキサイトしてる二人には、他人の迷惑なんて概念はどこにもないらしい。
「確かに起こしに来た」と証言?すると、おじさんは一瞬ひるみながらも、
「でも俺が起きてこなかったら、もう一回、起こしに来るべきだろう」と
言い放ったので、自分で寝過ごしておいて、そこまで言えれば立派!と、感心してしまった。
なんせ中国人は、自己正当化にかけては世界一の民族なのだ(と私は思っている)。
やがて、さすがに他の乗客が「うるさい」と怒り始めたので、そのおじさんは
荷物を持って車掌室へ行ったきり、二度と戻ってこなかった。
次の停車駅は夜中の3時と言っていたので、きっとそこで降りたのだろう。
あのおじさんがその後、どうなったのかは、誰も知らない。
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