上海出張編4

翻訳には、語学力はもちろん、正しい日本語と、何よりも専門知識が要求される。正しい日本語がかなり怪しい上に、もちろん当初は専門知識などどこを振っても出てこなかった。今は、基本的にニュースが対象なので、専門辞書を引いたり、中国人スタッフに聞きながら“何とかなっている”。某企業さんに伺った時、鈴鹿で走ったというオートバイが展示してあった。レースマシンを間近で見るのは初めてで、「タイヤがツルツルなんですねー」と、大マヌケな発言をしてしまい、「レース用ですから・・・」と苦笑され、専門知識のないのがバレバレになったことがあった。せめてお客さんの前では、「業界ニュースのプロフェッショナル」のフリを、と思うが、やはり無い袖は振れないもので、業界事情の勉強中である。
また別のアプローチ法として、外資系企業は数棟のビルに集中しているので、お客さんのところに行ったついでに、一階のテナント案内図を見て、飛び込みで行ってみたりもする。当初、私は、日本で見たことのある名前は、外国企業なのか日本企業なのか見分けがつかなかった。ある日、日本でよくみかける某有名タイヤメーカーの名前を見つけたので、軽い気持ちでピンポーンと行ってみた。お得意の「日本人いる?」攻撃をしようと思ったら、何とそこはフランス系で、ボスもフランス人だという。しまったー、フランス語はできないし、母国語でさえ怪しくなっている私の脳みそから、英語はキレイに抜け落ちている・・・。共通言語は見出せないが、来てしまったからには引っ込みがつかないので、本人に出て来られても困るが、とりあえず「ボスはいる?」と聞くだけ聞いてみた。
ちょうど不在だと言われ、応対してくれた中国人スタッフは、親切にフランス人ボスの電話番号と名前を教えてくれた。まさに理想的な展開である。これさえゲットできれば、あとは私のボス(欧米人)の出番なのだ。オフィスに戻って電話で話したら、「勇気あるなぁ、本人がいたらどうするつもりだったんだ?」と笑われたが、言葉の問題がないってだけで、普段の営業アプローチもさほど変わらないような気がしないこともない。
しかし、それでも営業活動はそれなりに順調で、自慢ではないが、いや、実は自慢なのだが、現時点での訪問成約率は100%である。まだ10社に満たないが、それでも100%には変わらない。契約書を頂いて退出する際に、「また時間があったら遊びにきて下さい」と、言われたりすると、ん?私は別に遊びに来た訳じゃないんだけど…と、一瞬、複雑であるが、そうやってパイプを太くし、コネクションを増やしていくのも、こんな無茶な営業活動の一策なのかもしれない。
確かに上海ライフは楽しいが、北京と行ったり来たりの生活は、良い事ずくめではない。久しぶりに北京のマンションへ帰ると、ガス湯沸かし器が壊れていたり、観葉植物が枯れてしまっていたりと、長期不在だと何かと問題も多いのだ。いつも元気なのは、サボテンくらいである。
電話代も事前に払えないので、結果的には滞納する羽目になるし、一人暮らしの長期不在は、やはり色々と面倒である。先月、半月ぶりに帰ると、水道の支払い通知が来ていて、すでに納付期限が過ぎていた。銀行に納付に行くと、期限が過ぎているから水道局に行けと言われるが、水道局なんてどこにあるか知らないし、平日は仕事だから行けない、土日は水道局が休み、となると、どうしようもない。その後10日間ほど北京にいて、また上海に来ることになったので、結局水道代を払えずに上海に来てしまった。帰って水道が止められていたらどうしよう・・・というのが、今一番の懸念である。
着々と上海エリアのクライアントを増やして、ある程度の数になったら、「センベン小姐上海駐在の嘆願書」の署名集めに回ることを真剣に目論んでいる。先日、北京本社とタイアップ予定の企業の代表者二人と私のボスを交えた4人で食事をした時に、「センベンさんが上海にいてくれると助かる」と、それとなくプッシュしてもらう手はず?だったのだが、一人がそう切り出したら、もう一人に「いやー、メールもあるから無理しなくていいですよ」と言われてしまい、根回し不足を悔やんだが、後の祭りである。私の上海駐在への道のりは、長く果てしないようだ。
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