9月12日(木) 新旧が交錯するまち―香格里拉

"中甸"―実はここは一部の日本人にとってはたいへん馴染深いところ。
わたしも旅の前に"香格里拉(シャングリラ)特集"として放映されたテレビ番
組ではじめて知ったのですが、かの高級食材が採れるおかげで "マツタケ御殿"
を建てた人たちもいるとか。しかしあの古びた家々のどこにそんな"御殿"なんか…
これは十分探してみる価値ありそうです。

その前にさきの"博物館"というのを覗いてみましょう。
ここも若いお坊さんが番をしていて参観料(5元)が必要です。
正しくは "中心鎮公堂"といい、屋根に宝塔を戴く中国のお寺風建物はもともと
まちの公会堂的役割を担っていたようです。中には入れないので覗き込んで見た
限りではチベット仏教のお堂のようでした。なぜこれが"博物館"なのかいささか
腑に落ちないのですが、まあ、それはさておき"マツタケ御殿"探しに出かける
ことにしましょう。

"中心鎮公堂"に沿って北に歩いていくと…、わぁ、あるある、立派な門構えの家
がその道の両側に何軒か並んでいます、しかもみんな同じようなデザイン―
つまり、自家用車があるらしく大きな飾り門扉、家は白いタイル張りの外壁に
レンガ色の縁をもった陸屋根が載って、二階南側部分は一面青色の遮光ガラス窓―
というもの。なかでもとりわけ立派なお宅は二階の外壁に色タイルでチベット
八吉祥紋を描き出していて、固く閉じられた門扉から覗き込もうとしたら、
いきなり犬に吠えつかれてしまいました。
それにしても、狭い路地に伝統的な木造家屋―切妻屋根二階建て、一階は物置や
家畜小屋、二階部分が住居になっている―が建てこんでいるような一角に、こう
した豪華な近代住宅があるというのも不思議な眺めです。昔のまちの中心は今で
は郊外の静かな住宅地になっているようです。

古城の入り口になっている"北門街"をぶらぶら歩いていると、ふと一人のおじい
さんに呼び止められました。背が高くてなかなかに威厳ある人です。
 「さあ、こちらへお入りなさい」
門に取り付けられた金看板には"香格里拉民間自然保護協会"の文字、NGOの
事務所かしらん?それにしては普通の伝統的木造民家のようです。
導かれるままに外に取り付けられているがっしりとした木の階段を上がると、
 「これがなにかわかるかね?」
指差された木の腰壁には墨書きと思われる大きな字で"造反有理"と書かれた跡が
残っていました。
 「これは…文革の?」
 「ほう、よく知っているね、ではこちらへ」
左手にある扉が開かれると薄暗い中、書類や本の散乱する机、長椅子兼用のベッ
ド、さらにその奥には壁一面にりっぱな仏龕(厨子)が造り付けられていました。
どうやらおじいさんの書斎兼自室兼仏間というこの家の中でいちばん重要なお部屋
のようで、窓枠も一風変わった形をしています。外部から入る光で神像の壁画が
うっすらと浮かび上がっていましたが、それ以上に文革時代のスローガン"打倒、
劉少奇、?小平!"や毛沢東賛美の句が柱や鴨居に黒々と跡を残しています。
 「この家はもともと中甸でいちばん古くて大きな家だった…、それで人民公社
に接収され、その後、政府が返してくれて再びわしのものになったのだよ」
そう感慨深げに語りながら、この家を紹介した台湾で出版された本やいままで
この家に招待した"国際朋友"―なかでも日本人がとくに多い―の写真など見せて
くれました。
伝統的民家の典型ともいえるこのおじいさん―ンガポ・ワンチュク氏のお宅は
二階の住居部分にこの書斎兼仏間の他、ストーブを囲むかなり広い居間兼食堂を
含めると三間ほどあるようで、とくに居間の壁にはきれいに描かれた八吉祥の
紋様が一つずつはめ込まれ、かなり立派な造りでした。

こうした風情ある古城付近にも外国人が泊まれるホテルが数軒あります。
街の中心部からはやや離れますが、とくに人気なのが
"永生飯店"。
街のメインストリートを南下して北門街に入らずにそのまま左折、舗装道路を
しばらく行くと、いきなり右手に紅殻色の壁と古色蒼然たる極彩色の飾り門が
出現、それこそ"博物館"みたいなチベット風建築、これが二ツ星ホテルという
から一度は泊まってみたくなります。チベット風の立派な内装を施したフロント
で聞いてみたところ、標準間(スタンダード・ツイン)は季節によって多少違う
ようですが150〜190元ほど、写真で見たところではお部屋の内装は残念ながら
ごく一般的なものでした。
来たついでに、ここの洋食レストランで昼食にしました。雲南コーヒーとなぜか
またしてもバーガーを注文、レタスの上に目玉焼き、トマト、さらにわらじの
ような超特大ビーフハンバーグと玉ねぎスライスがのっかってものすごいボリュ
ーム、欧米人の宿泊客が多いので量もそれなりにビッグです。これで合計20元、
現地物価にするとけっこうなお値段ですが、洋食ならまあ標準価格かもしれませ
ん。
(2003年のメルマガ掲載分です)
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