九寨溝・黄龍

今年10月国慶節の休暇が明けた頃、九寨溝黄龍を訪れた。
今やすっかり有名になった九寨溝黄龍も、1980年代は、四川省の山奥に
チベット族の住む秘境として「知る人ぞ知る」的存在だったが、1990年代に
世界自然遺産に登録されると、多くの人々が知るところとなって、成都からの
バス・ツアーもちらほら出るようになった。
しかし、料金は高く、往復の行程も悪く時間がかかった。
 だが、2000年を迎えていよいよ観光開発が進み、道路は全て舗装され、近代
的なホテルが建設されたし、風景区内の観光整備も整った。すっかり、秘境で
はなくなった感はあるが、その分行きやすくなったのも事実だ。数ある中国の
世界遺産景勝地の中でも、「九寨溝黄龍」は今最もHOTなスポットだろう。

 私たちはのんびりと自分たちのペースで旅を楽しみたいので、ローカル・バ
スで九寨溝を目指すことにした。定刻通り8時に出発したバスは途中トイレ休憩
と昼食休憩、チベット仏教寺院参観の時間を除いてはひたすら走った。
午後7時近くになり薄暗くなった頃九寨溝のホテル群が見えてきた。
とうてい山の中の秘境といった感じではない。すでにこれらのホテルに予約を
取っている人が、車掌にいって途中で降ろしてもらっていた。ただ、ホテルの
予約は、よほどの繁忙期以外は、実際には必要なさそうだ。
むしろ、ホテル側が供給過剰の状態らしく買い手市場だと思われる。

バスの終着点は九通飯店の駐車場で、そのまま九通飯店に宿をとる。
状況しだいだろうが、値切れば安くなる。九寨溝の風景区の入り口に広がる街
は、一本の道路に沿って開けていて、夜遅くまで人の行き来があってにぎやかだ。
夕食は通りの食堂でとった。成都の安食堂の1.5〜2倍位の価格だ。[牛毛]牛
(ヤク)肉料理が名物なので、回鍋[牛毛]牛肉を食べてみた。
少し塩辛いがなかなか旨い。

翌朝、九寨溝風景区の開門を待って入場した。もちろん、風景区内に宿泊する
つもりで全ての荷物を持って…。九通飯店の服務員に聞いたところ、「風景
区内に宿泊施設はない」とのことだったが、朝夕の美しい景色を見るためには、
是非、風景区内に宿泊したい。ほとんど賭けのような出発だったが、結果的に
この選択は大正解だった。どうやら、風景区内の招待所は既に廃止されていて、
正式には風景区内には泊まれないことになっているが、チベット人の経営する
宿に安く泊まることができた。もともとこの地で暮らしてきたチベット人
経営する宿まで公園管理局は規制できないのが実情のようだ。しかし、今度
訪れたときも同じ様に風景区内に泊まれるかどうかはわからない。

九寨溝風景区は、門票と車票の2種類の入場券を買って入る。風景区内の移動
は、この車票で乗るバス以外には歩くしかなく、バスの乗り降りは何度でも
自由にできる。概略をつかむため、とりあえず半日かけてバスで風景区内を
回った。さて、午後になって樹正寨で宿でも探そうとバスを降りたら案の定、
商店の兄ちゃんが「住宿??」と聞いてきた。バス・トイレ付のチベット式の
綺麗な部屋に案内された。お湯が出ないのにバスタブがついていたのは、ご
愛嬌だったが…。都市の渉外飯店のドミトリーより安い。食事も宿屋でとれる。
集落にもレストラン1軒と安飯屋1軒、数件の商店と多数の土産物屋があり、
昼食にする干餅(ビスケット)・飲料、必需品のトイレットペーパー・酒類
まで必要なものは全て揃う。物価は、土産物を除いて街の2倍程度。
この手の観光地としては決して高い値段ではない。

宿屋での食事は基本的には1人1品とご飯・スープだが、宿泊客の多い時は
4〜6人でテーブルを囲み、人数分の品数のおかずとご飯・スープとなる。
なかなか豪勢だし、中国各地・台湾・香港、そして日本といろいろな所から
来た人がテーブルを囲む楽しい食事となる。九寨溝には都合4泊したが、2日
目以降はあまりバスを使わずひたすら歩いた。私たちは幸運にも紅葉(黄葉)
の時期に行ったので、見るもの全てが輝いて美しく見えた。澄み切った湖の中に
横たわる樹木は太陽の光が差し込んだとき特に美しく見えるし、遠くから眺め
る水の色も晴れた日にみると、限りなく碧く透き通っている。風景区内全体に
遊歩道が整備されていて、すべてのポイントを余すことなく歩くことができる。
ツアーでくるとポイントポイントをバスで移動することになり、合理的に見て
回れるだろうが、時間が許す限り自分の足で歩きたい。

特にお勧めしたいのは、樹正寨より小橋を渡って樹正群海の東側の散策路を
通り諾日朗瀑布・鏡海・珍珠灘を経由して五花海に至り、最後にひと登りして
老虎嘴より五花海を見下ろすコースだ。ゆっくり歩いて4〜5時間。バスでも
各ポイントは訪れられるが、美しい水面・滝を眺めながら爽やかな空気を
吸って(少し薄いが…)のミニ・トレッキングは、心地よい疲れと精神の
リフレッシュをもたらしてくれる。特に、早朝出発すると、途中、リスや小鳥
などの小動物に何度となく出会うだろうし、写真でよく見るお決まりの景色
ではない自分だけの絶景ポイントも見つけられるだろう。(つづく)
(2002年のメルマガに掲載したものです)
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