寧夏・内蒙古 編

西夏王陵
銀川観光の目玉といえば、西夏王陵だろう。
寧夏・銀川と聞いて何の印象も持たない人でも「西夏」と聞くと「おゃ?」
と思うのではないだろうか。
そして「おゃ?」と思った人の大半は、映画化もされた井上靖歴史小説
敦煌』を読んだことがあるのではないだろうか。
歴史上の実在人物や事件の中に、架空の人物を配することによって、歴史の
謎の解明に挑戦した物語だが、私は、その想像力のたくましさとスケールの
大きさが大好きだ。

敦煌』は、主人公の趙行徳という架空の人物が、西夏の女性を助けたこと
から、西夏という国とその文字や文化に魅せられ、西の方、西夏の都興慶府
を目指すところから始まる。
西夏は宋代にタングート族が建てた北方の異民族国家だが、漢文化を上手く
吸収することによって西夏文字を始めユニークな文化を持っていたことで知
られている。

趙行徳が西夏文字を学んだ興慶府は、現在の銀川である。
また、物語の中で、趙行徳は愛するウイグルの王族の女を西夏の(当時の
)皇太子李元昊に奪われ、そのために女を飛び降り自殺に追いやることに
なる。
この李元昊こそが、1038年に西夏を建てた実在の王であり、西夏王陵中
もっとも規模が大きい泰陵は、李元昊の陵墓だとされている(もっとも、未
だ研究中で断定できないらしい)。そして、銀川の西、賀蘭山のふもとに点
在する陵墓群は、以後1227年にモンゴル軍によって壊滅させられるまで
続く西夏王朝の王たちの陵墓である。

というわけで、思い入れたっぷりの我々は、西夏王陵を見るべく早起きして
朝6時過ぎに出発。駅の近くに西夏王陵行きのバスの停留所があるのだが、
早すぎたのでバスはない。バスは帰りだけ利用することにして、片道だけタ
クシーに乗ることにした。以前は、近郊の観光地への片道乗車は吹っかけら
れるか乗車拒否されることが多かったが、今では普通にメーターで走ってく
れる。駅前から西夏王陵までは30?ほど。街を抜けると、いつの間にか視
界が開け、その先に賀蘭山の山並みが現れる。ごつごつした大地の景色を楽
しみながら、あっという間に到着。
おかげで7時の開門まであと20分もある。広い駐車場を過ぎた所に立派な
門と入場券売り場があり、そこで開門を待つことに。すると門番が出てきた
ので、ダメ元で「まだ入れないの?」と聞くと、「じゃあ…」と係員を呼ん
できてくれた。人のよさそうな中年男性係員は入場券売り場の裏口から入り、
もぞもぞと入場券を探し始めた。どうやら本来は入場券を売る仕事をしてい
るのではないようだ。それでもどうにか見つけ出して売ってくれた。入場券
には「中国寧夏西夏王陵旅游区」という漢字以外に、なにやら漢字のようで
漢字でない複雑な文字が…、これが西夏文字だ。趙行徳を西夏に導くきっか
けともなった文字である。そう思うだけで、わくわくしてくるではないか!

旅游区内には、陵墓以外に博物館・蝋人形館、送迎電気自動車などがあり、
この入場券一枚ですべて自由に利用できる。すっかり今時の観光地である。
旅游区内に入場して、さらに驚いたことには、送迎電気自動車が我々を追
いかけて来るのだ。運転のおねえさんがにこやかに「乗って!」と声をか
けてくれた。本来ならまだ、運行どころか開園もしていない時間であるが、
早起きのバカな外国人に対する親切で走らせてくれたようだ。入り口から
泰陵までは1?ほどなので歩いても苦にはならないが、わざわざ追いかけ
てきてくれた気持ちがうれしい。貸し切り状態の電気自動車に揺られなが
ら、我々の銀川に対する度は一気に好感度は極限までアップした。
さて、いよいよ西夏王陵とのご対面である。
西夏王陵は、賀蘭山東麓に点在する9基の歴代の王の陵墓からなる。
が、それぞれが非常に広い範囲に分布しているので、普通に訪れた旅行者
が観光するのは「旅游区」内にある初代西夏李元昊の墓といわれている
泰陵だけである。
泰陵に着くと、手前に祭壇のような台があり、その上にユニークな顔がつ
いた直方体の石像が4体見える。これらは墓道に並ぶ文武官たちであろう。
その向こうに、ラグビーボールを半分に割って地面に突き立てたような巨
大な土の塊があり、全体を取り囲むように土塀が残っている。今となって
は、土色の廃墟でしかないが、本来は、地下の墓室の上に磚で築いた塔が
建てられ、その塔を木造瑠璃瓦葺きの建物が覆っていたというから、さぞ
や立派な陵墓だったはずである。そして、我々の目の前にある巨大な土の
塊は、13世紀初めにモンゴル軍に破壊され木造部分が焼き払われた後、
磚塔の部分が残ったものだ。
往時の様子は隣接する博物館の模型から知ることができる。石像などは漢
文化のそれとは異なるが、建築物は漢文化をかなり取り入れて建造された
と思われる。

早起きは三文の得…人々の親切のおかげで、誰に邪魔されることなく早朝
西夏王陵を楽しんだ我々は、博物館等も見学し終わり、次の目的地に向
かうべく西夏王陵旅游区の門を出た。
駐車場にあるバス停の標識の前でしばらく待ったがバスは来ない。駅前と
旅游区を結ぶ路線バスが半時間おきにあることは昨日確認したはずなのだ
が、30分以上待っても来ない。どうやら観光シーズンのみ運行するよう
だ。我々以外の観光客は大半がツアー客、それ以外はタクシーをチャータ
ーしての観光だ。ならばここで待っても仕方がない、幹線道路に出て銀川
に向かう長距離バスを止めることにした。が、来るのはツアーバスと自家
用車、トラックばかりである。途方に暮れつつ待つこと小一時間、ようや
く空のタクシーが向こうからやって来た。
こうなったら予定を変更して、ここでタクシーをチャーターして賀蘭山岩
画と拝寺口双塔を観光してしまおう、多少足元を見られても仕方ない、と
腹をくくった。運ちゃんにその旨を伝え、値段交渉に挑もうとしたら意外
にも「メーター通りだ」と言う。ただ、「娘を塾に送っていかなきゃなら
ないから午後3時までに街に戻りたいが、時間は大丈夫か?」とのこと。
もちろん、交渉は成立し、タクシーはスピードを上げ、北の方、賀蘭山の
ふもとへと向かった。運ちゃんの娘は、来年大学受験だそうだ。できれば
音楽系の重点学校に入学させたいそうだ。となると北京である。娘が銀川
を離れて下宿生活を始めたら心配事も多いだろうし、なにより寂しいだろ
と聞くと、いい大学に入ってくれればそれでいい、とか。一昔前のタクシ
ー運転手といえば、観光客と見るとぼったくる悪い印象しかなかったが、
最近の運転手は、そうでもない。真面目で家族思いの運ちゃんのおかげで、
楽しく快適に銀川西郊を観光することができた。

銀川から足を伸ばして日帰りできる観光地が2つある。いずれも以前は、
交通の便が悪く到底日帰りできなかったところだが、今は路線バスを利用
しても日帰り観光できるので、それらの紹介を…。
                       (つづく)
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