青海省編

日月山から151へ
さて、我々の読みの甘さで日月山まで一時間以上歩く羽目になったこと
は先に書いた。
日月山観光を終えた我々は、今さらながらもうひとつの大問題に直面する
ことになる。
もともと我々の計画では、共和行きの路線バスを日月山で下車して観光し、
観光後は再び同じ共和行きの路線バスに乗って、青海湖方面への分岐であ
る倒淌河まで行く、そこで西に向かうバス(ゴルムド行き、都蘭行きなど
いろいろある)に乗り換える、という予定であった。
 
 大問題と言うのは、今いるところから十数キロ離れた倒淌河までどうや
って行くか、ということである。
日月両亭の間を旧道が通っていて、いくらか交通量もあるのだが、見たと
ころ路線バスは走っていなさそうである。
来た道をまた1時間かけて高速道路まで歩いて戻る気力もない。
慌てても仕方が無いので、「何かの間違えで路線バスが来ないかな」と期
待しつつ、道端に座り込み、持ってきた水とスナック菓子の簡単な昼食を
取る。
と、一台のピックアップトラックが峠の脇に停まって中から数人の男女が
出てきた。
どうやらドライブの途中でここに立ち寄ったようだ。
峠で土産物を冷やかしたり、スイカを食べたりしている。
我々の視線は自然とトラックの荷台に注がれ、自分達が乗れる十分なスペ
ースを確認すると、車に駆け寄った。
まさに渡りに船である。
状況を説明したところ、倒淌河まで乗せてくれることを快く了解してくれ
た。

 倒淌河の街の少し手前、検問所の所で車を降りる。その横を流れるのが
倒淌河である。
夏場は水量が少ないのであまりさえないが、この河は強情な(?)河とし
てその名を馳せている。
この河の名前を日本語風に言い換えると「逆流河」である。中国では黄河
や長江のように河は西から東へ流れるものなのだが、この倒淌河は、青海
湖に向かって東から西に流れている。
中国人的には千数百年もの間、ずっと西に向かって流れ続けている河は、
強情なのだそうだ。

当面の目的地、青海湖畔の度假村(保養村)「151(ヤオ・ウー・ヤオ、
西寧からの距離が151kmなのでそう呼ばれている)」までは、倒淌河の
街でゴルムド方向(西)に向かうバスに乗り換えなければならない。
しかし、またもや問題発生。
バスは何台も通るのだが乗せてくれないのだ。
ここ数年、路線バスの定員オーバーに対する取締りが厳しくなっていて、
座席数を越す乗客を乗せた運転手は罰せられる。
バスに向かって手を振って乗りたい意思を示しても、運転手が「No、No」
と小さく手を振り返してくるばかり。
1時間ほどたってようやく一台停まってくれた。

 いつだか中国のTV番組で、バスの定員オーバーを取り締まる場面を見た
ことがある。
大型バスの荷物置き場を開けると、中に数人の客が小さくなって隠れてい
るのが見つかって、運転手さんが交通警察にこっぴどく説教されている場面で

ある。
今でも田舎の中・長距離バスに乗ると、通路に木の腰掛けを並べて臨時座
席にし、定員オーバーで走っているバスは多い。
確かに安全面で問題はあるが、乗りたい客の数に対して現状では十分な数
の座席が確保されていないのだから、定員オーバーには必要悪という面も
ある。
単に定員オーバーを取り締まるだけでは問題は解決しないだろうと、道端
で1時間も待たされた我々の恨みは深い。
倒淌河を出て30分足らずで青海湖が見えてきた。
快晴の日のちょうど夕刻であったせいもあるのか、初めて見る青海湖
青く澄み切ってキラキラ輝いており、なんとも浮世離れした美しさであ
る。

モンゴル語で「ココノール」、チベット語で「ツォンゴンボ」というそ
うだが、どちらも「青い湖」という意味だ。
確かに、この色を見てそれ以外の名前が思いつくとは思えない。
とにかく青いのだ。

 我々の乗ったバスは青海湖南岸の国道109号を西に向かっているのだが、
しばらく走ると、道路と青海湖の間に真っ黄色の菜の花畑が広がり始めた。
空の藍、雲の白、青海湖の青、菜の花の黄色、極彩色の世界だ。
あまりの美しさに、1時間待ってようやく乗ったバスを1時間も乗ってい
ないのに飛び降りてしまった。
この先の交通の不便さを考えると、多少無謀である。
しかし、この景色はそれに値するだけの価値があった。
こんな美しい景色の中であれば、何時間バスを待ったって、何時間歩いた
って楽しいはずである。
ちなみに、7月が青海湖南湖畔の菜の花の開花時期、環青海湖国際公路自
転車レースが行われるのもこの時期だ。
 絶景を堪能しながら国道109号をとぼとぼ歩き始め、そろそろ疲れ果て
た頃、幸いにも面的(軽バンタクシー)が通りかかった。
おかげで151までは、快適に移動することができた。

 151は青海湖畔の度假村(保養村)であるが、我々にとっては1泊するだ
けの場所だったので(この手の観光施設は中国人向けに作られているので、
外国人旅行者が楽しいと感じるところは少ない)、国道に面した簡素な招
待所に宿をとった。
値段相応の施設だが、寝る前にトイレ(当然トイレは屋外にある)にたっ
た時、夜空を見上げると満天の星空。
公害も都市の明かりもない青海湖畔でみる天の川は、光の帯でありながら、
ひとつひとつの星がはっきり見て取れる。
手を伸ばせばその一粒を掬えそうである。
 
そんな星空を楽しんだのも束の間、夜中、高山病による頭痛に悩まされ
ることになった。
青海湖の湖面は海抜3260メートル、一日中歩き回って疲れが出たのと、水
分不足が後押しして、微熱と頭痛の症状が明け方まで続いた。
北京を出発する前、「紅景天」という漢方薬(蔵薬)が高山病に効くと聞
いて準備しておいたのだが、早速それのお世話になった。
翌朝には頭痛もすっかり消えていたが、「紅景天」が効いたのだろうか。

            
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