Zビザ取得編

中国に入国するには、もちろんビザが必要である。
中国のビザには数種類あるが、学生ビザ(Xビザ)から就労ビザ(Zビザ)に
切り替えるためには、一旦帰国して日本で申請しないといけないと言われ、
Zビザを申請するための必要書類を中国で揃えてから帰国し、
日本の中国大使館で申請することになった。

私にとって、Zビザは、まさに”憧れのZビザ!”である。
Zのマルチを取れば、リターンビザなしで出入国ができるようになる。
リターンビザの申請は手間もお金もかかり、ホントーに煩わしいのだ。
仮に香港へ行く場合、日本人は香港にノービザで入れるが、以前のXビザだと
大陸へ戻るために、リターンビザが必要になる。
中国人は逆に、香港への入境許可が必要だが、大陸へ戻る分には問題ない。
うーん、何かが違う・・・ような気がするが、返還されたとはいえ、
やはり香港は”特別行政区”で、大陸とは一線も二線も画しているのだ。
Zのマルチがあれば一時帰国も自由自在!香港へも行きたい放題!
考えただけでも、うっとり・・・である。

その”憧れのZビザ”の申請には健康診断が義務付けられているが、
日本の病院で健康診断を受けて不備があり、交付に1か月以上
かかったという話しも沢山聞く。
長く日本にいたいのは山々だが、社会復帰してしまっただけに、
そうも言っていられないので、できるだけ確実なように、
中国の指定病院で健康診断を受けることにした。
正直、気は進まなかったが、背に腹はかえられない。

政府の指定病院は、朝早くから既に大勢の人が列をなしていた。
外国人が多いせいもあって、きちんと一列に並んでいる。
その光景がやけに新鮮で、「ブロックしなくて良いなんてすごーい!」
と、ケアを怠っていたら、やっぱり割り込まれてしまった。

延々と待ちつづけ、ちっとも進まないので、一体どんな診察を
しているんだろう、と閉ざされたドアの向こうが気になる。
やっと診察室に辿りつくと、中年の女医さんは身長と体重を聞き、脈をとって、
首を撫でて舌を見た後、聴診器を当てて「とっても健康ね、問題ないわ」と
にこやかに言い放ち、おもむろに全項目に「ノーマル」と記入する。
視力に1.と書きかけたが、それはさすがに途中で止めて二本線で消し、
聴力と視力、色盲の欄にも、ご丁寧にノーマル、と記入してくれた。
5千年の歴史に育まれた中国の医学は、この診察で色盲の有無まで
分かるらしい。
こんな簡単な診察なのに、何でこんなに待たされるんだ?と、どうも納得が
行かなかったが、ま、仕方がない、何と言ってもここは中国なのだ。

気を取り直して採血室へ行くと、日本の献血針よりも太い針が出てきて、
「まさか、これ?」と引きつる私の腕に、看護婦さんはためらうことなく
思いっきり突き刺し、あまりの痛さに思わず涙ぐんでしまった。
いい大人が注射で泣くなんて我ながら情けないが、それ程の激痛だったのだ。
(跡に出来た3×7センチほどの内出血は1週間以上消えなかった)

腕を押さえながら、何だかなー、と首をひねりつつ、心電図へ。
靴を脱ごうとしたら制止され、靴のままベッドへ上がれと言われる。
ストッキングの上から薬を塗られ、機械を装着。
そして数秒で「はい、終り」といわれ、プリントアウトした数センチほどの
紙を渡された。これでは不整脈すら分からんだろう・・・

最後に胸部レントゲンを撮った、いや、撮ってはいないのだ。
カシャっと音もしなかったし、フイルムはなかった。
胸部をX線で見てもらった、というべきだろうか。まさに目視である。
そこでもただ、用紙に「ノーマル」とハンコを押され、すべての診断が終了。

うーん・・・と大きなハテナマークが頭の中をぐるぐる回る。
しつこいようだが、その病院はビザ申請のための政府の指定病院なのだ。
これで良いに違いない、ここは中国なのだ、と言い聞かせても、さすがに
こんな健康診断でホントに大丈夫だろうか、と不安になり、受付で、
「Zビザ申請は、これで本当に問題ない?」と聞くと「問題ない」とすげない。
それにしても、この診察で650元(=1万円以上)は高くないか?
おまけに、隣で診断料を払っていた中国人は、なんと40数元だった。
おいおい、いくら何でも15倍はふっかけ過ぎだろう・・・と思うが、
空腹で長時間、立って待たされた挙句に採血したので、クラクラして、
文句を言う気力は残っていない。もう、とにかく一秒でも早く帰りたかった。
朝食抜きで来いと言われたが、尿検査もないし、この診察内容なら
朝食は関係ないような気がするのは私だけだろうか。
この要領の悪いシステムは、そこを訪れる人たちの血糖値を下げて、
パワーダウンさせるのが狙いかも、と真剣に思ったほどである。

結果の受け取りの日、「Zビザの申請なの、問題ない?これで全部?」
と念のために確認すると、「絶対没問題」(ぜったいに問題ない)
と自信に満ちあふれた返事が返ってくるが、中国人の言う
「絶対に問題ない」は「たぶん大丈夫」って程度に過ぎないのだ。
「絶対・・」を真に受けていたら、腹が立ちすぎて中国で暮らしていけない。
だが、いくらそうと分かっていても、絶対に問題ない、と断言されると、
それ以上つっこめないのがツライところでもある。

そして帰国後、血液検査の明細を記載した手帳がない事が判明した。
用紙に押された「ネガティブ」ってハンコだけではダメらしい。
さっすが中国、期待は裏切らないねー、と感心している場合ではない。
いいじゃん、エイズも肝炎も「ネガティブ」なんだから、と思うが、
とにもかくにも、その手帳が必要らしい。
そんなモノは貰っていない、病院でくれなかった・・・とエージェントの方に
ゴネてもらって事なきを得たが、もしあれが日本の病院だったら
間違いなく再検査させられているところである。
どうやら中国大使館も、自国の指定病院なだけに寛容になれるようだ。

中国のビザを申請する際、海外の病院で受ける健康診断は、中国政府の
指定を受けた病院か、国公立病院のものしか認められない。
首都である北京の唯一の”指定病院”で、あの健康診断、しかも書類不備!
そりゃー外国の保健所や病院を信じないのも無理もない、と妙に納得した。
日本の市町村で行われている、住民のための無料健康診断が
どれだけ素晴らしいものであるかを、見せてあげたい気分である。

http://homepage3.nifty.com/kamakurakoka/