寧夏・内蒙古 編

秦直道 (前半)
包頭の近くに、もう一カ所始皇帝にからむ遺跡が残っている。
我々も、ガイドブックを閑に任せて読み漁っていて発見するまで全く知
らなかったのだが、「秦直道」というものである。
ガイドブックによると、始皇帝が作らせた西安〜包頭間の高速道路(?)
の遺跡が、オルドス市東勝区の西方にある泊爾江海子にあるいう。
秦代長城が思いのほかすばらしかったので、これはひょっとしたらひょ
っとするかも…と、大いに期待が膨らんだ。
我々の頭の中には、古代ローマアッピア街道遺跡と同じような石畳が
オルドスのゴビ灘に延々と、しかも一直線に続いている景色が描かれて
いた。

秦代長城を見学した翌日、再びオルドス市の東勝区まで行き、そこでバ
スを乗り換え、40分ほどで「秦直道」があるはずの泊爾江海子に無事
着いた。
泊爾江海子は道路道沿いに商店がいくつかあるだけの小さな集落で、そ
こからどうして「秦直道」に行くのかは、皆目見当もつかない。
周囲の人に聞いてみても、皆知らないという。
知ってそうな人のいる所を探そう、というのでようやく発見したのが鎮
政府(村役場)である。
昼時だからか、それとももともと人が少ないのか、ひっそりと寂しい建
物内にようやく男性を発見。「秦直道」のことを訪ねると、「それなら
多分、城梁村にあるやつだろう。もと来た道を少し戻る事になるが…」
と教えてくれた。
気を取り直して戻る方向のバスに飛び乗った。
車掌さんに城梁村にある「秦直道」に行きたいと告げると、知っていた
ようで、すんなり目的地で降ろしてくれた。
確かに、道路わきに大きな看板があって、「秦直道」と書いてある。
だが、辺りはところどころ崩れて崖になっている草ぼうぼうの工事現場
のような所だ。
看板の所から車の轍が2方向に分かれてあるものの、他には何もない。
頭に描いた石畳の一本道とはあまりにもかけ離れた景色である。
それにしても何か遺構が残っているはずであろう。
せっかくここまで苦労してたどり着いたのに…と、がっかりしていると、
向こうの方にがたがた道をでたらめに走っている一台のバンを発見。
とりあえず、周囲には他に人は誰もいないし、逃がしてはいけないと思
って駆け寄り「どれが秦直道?」と聞いてみた。
運転していた兄ちゃんに聞いたのだが、助手席にいた目のくりっとした
30前後のきれいな女性が、いきなり車を降りてきて我々を質問攻めに
し始めた。
「どこから来たの?」「どうやってきたの?」「何で知ったの?」と、
答える間もないくらい矢継ぎ早に言葉を浴びせられて、少々唖然として
しまった。
質問しているのは我々なのに…と思いつつ、聞かれるままにひとしきり
答えて、やっと女性は我々の質問を受け付けてくれた。
「じゃ、今から行くから乗って」と導かれるままに車に乗って、ようや
く我々は事の次第を理解し始めた。
女性はオルドス市の観光開発業社の人で、これから来年の5月(200
5年)までに「秦直道」を観光整備するプロジェクトを手がけている。
我々が彼女に出会ったその日は、公園予定地の土地買収をめぐる仕事の
一環で、立ち退きを渋っている地元の人を説得するために公安局の偉い
さんと一緒に現地を訪れたのだという。
そんなわけで、彼女はこれから自分たちが開発しようとしている「秦直
道」をわざわざ見に来た外国人に関心を持ち、しかも、親切に案内して
あげようという気になったようだ。
我々としても、もし彼女たちに出会わなければ、「秦直道」がどのよう
な物かもわからず、一日を無駄にしていただろう。

(つづく)
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