9月13日(金)〜14日(土) 梅里雪山の懐へ―徳欽一泊小旅行

天葬台を過ぎて15分ほど、道路の右手やや下方に一群の建物が見えてきました。
奔子欄から一時間、最初の参観地"東竹林寺"(トントゥプリン・ゴンパ)に到着です。
なだらかな斜面にはベンガラ色の壁を持つひと際大きな本殿、
それをとり囲むように白壁の僧坊が崖っぷちに臨んでいます。
さっそく車を降りて、坂道を下り本殿の裏手を回ります。
"行きはよいよい帰りはコワイ"、下るのは実に簡単なのですが…。

廻らされた僧坊の壁をくぐると、滑らかな石畳が敷き詰められた中庭に面して
壮麗な本殿が目に入ります。
屋根飾りのギャルツェンはなぜか金色ではなく黄色に塗られていて、
ひょっとすると木製なのかもしれません。
17世紀の創建とされるこのお寺は幸いにも文化大革命の破壊から免れた数少ない
大寺院の一つですが、それにしては壁もきれいで、松賛林寺と比べるとずいぶん
手入れが行き届いているようです。
面白いのは正面石段の両側を一対の石獅子が守っていて、さらにその左右に
石の欄干を据えつけた一風変わったデザイン、
清朝朝廷と深い関わりがあった所以でしょうか?
一方、反対側の崖に面した僧坊入り口から外を望めば、
狭まった視界が一気に解放されて風に乗って自在に飛ぶ鷹になった気分です。

本殿内部ではちょうど午後の勤行が行われているところで、
撮影厳禁という条件で中に入れてもらいました。
聖なる場所なので靴を脱いであがります。
陳さんとわたしは床石の冷たさを味わいながら、
薄明かりの中を周囲の壁一面に描かれた壁画を眺めながら右回り。
一方、お坊さんたちはどうやら食事時間らしく、
練って固形にしたツァンパをひたすらもぐもぐ。
総勢200人近い深紅色の衣の中に混じった二十〜三十人ほどの小僧さんたちは
白い歯をのぞかせていたずらっぽい顔でこちらを注視しています。
ヒタヒタ、ピチャピチャ、クスクス…、
不可思議な音に満ちた静寂の堂内を出て本殿脇の木造階段を二階、三階へと
上がってみると、あちらこちらにチベットの吉祥紋様が描かれた窓や扉の
装飾パーツが無造作に置かれています。
どうやらこのお寺は目下改修作業が行われている真っ最中のようでした。

車まで戻るのはひと苦労。
このあたりは海抜3,000メートルにも達していないはずですが、
急な上りはやはり身体にこたえます。

竹林寺の先は再び砂利道、進むとともに高度を増して、
やがて道路脇一面が山ツツジの群落に。
初夏の開花シーズンにはさぞやきれいなことでしょう。
車はすでに "白茫雪山自然保護区"に入っていました。
カーブを描きながらどんどん高度を上げていくと、
やがて前方にところどころ雪を残す険しそうな山が姿を現します。
プリン型を伏せたようなこの山は白茫雪山の主峰(5,640メートル)、
このあたりになると路面もすでに海抜4,000メートルを超えます。
ところがこんなところで一台のマイクロバスが立ち往生、
気の毒に同じ帽子をかぶったツアー客十数名は救援の車を待つしか術がないようです。
「一人一台なんて車代がもったいない、一台に二人乗せればいいのに」
といぶかる陳さんに、
「車が故障したらどうするんだ、万一のために二台で走るんだ」
と答えたタシさんの言葉を思い出しました。
このルートは車が故障するくらい道が悪いということなのです。
とくに白茫雪山一帯は目下道路工事中で、あちこちで工事のトラックに道を塞がれ、
その都度タバコを吸っているのか昼寝している運転手さんたちを呼び出しては
トラックを移動してもらうという手間もかかりました。
徳欽まで180キロの道のりで七〜八時間かかるというのは、
昼食や途中見学以外にも、尚こうした余分な時間がかかってしまうためです。
工事が完了するのは来年(注;2003年)3月の予定、
香格里拉=徳欽間は五時間足らずに短縮されるそうですが、
観光客もどっと押し寄せて俗化されてしまうことでしょう。

                           (つづく)

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